ジェラシー
―エトワール ? 朝―
そして、会議終了後、俺はボスに呼びとめられた。
「……何でしょう?」
「ごめんね。エトワールが忙しいことは、重々承知してるんだけど……確認しておきたいことがあってさ」
ボスは申し訳なさそうに手を合わせると、言葉を続ける。
「モニカ警部補は、どういう状態なんだい?」
「あぁ……」
彼女は、正義感に燃えて一つの事件と警察の腐敗を明らかにする為に奔走していた。しかし、たった一人の凡庸な人間がボスの立てた計画を打ち崩せるはずもなかった。
「昨日の夜の時点で、自宅で意識を失ってそのまま眠りにつきました。今日の早朝に目を覚ましましたが……かなりの錯乱状態である様子でした。報道を見たことと、他の魂が急に出入りした影響でしょう。それと、言われた通りに情報は流しておきました。早くて明日には、影響も出てくるでしょう」
アリアは名誉を回復させることなく亡くなり、犯人死亡で事件は片付くだろう。化け物騒動も、もうこれから起こることはない。反乱を企てていたのは、モニカただ一人。警察という組織は、そのままであり続けるだろう。俺達の組織の手足として、この世界が終わるまで。
「……なるほどね。まぁ、想定通りだ。ただ、このままでは自分の終焉の理想に反する。自分の中では、この世界に生きる者のほとんどが幸福な状態で終焉を迎えられるようにしておきたい。目に届く範囲で、放っておく訳にはいかない。よし、アマータ!」
少し考える素振りを見せた後、悠長にボスはお色直しをしていたアマータを呼んだ。
「はぁ~い? 何かしらぁ? もしかして、デートのお誘――」
「あぁ、子守りと介抱を頼みたいんだけど」
笑顔のアマータに対して、ボスは真顔だった。拒絶の意思が確かにそこにある。それでも、アマータは挫けない。きっと、これからも誘い続けるだろう。
「あらぁ、もう! つれないんだから」
その鍛え抜かれた肉体で、ボスの肩を殴る。恐らく、冗談でちょっと叩いたつもりなのだろうが、音が鈍かった。
「……やってくれるよね」
「そりゃぁ、いいけれど。貴方のお仕事のスケジュール管理とかどうするの?」
「イザベラに任せようと思って。そのまま引き継ぎ出来そうかい?」
「出来るけど、何だかジェラシー」
わざとらしく、アマータは頬を膨らます。見るに堪えない光景だ。俺は、もうこの場から立ち去りたい気分だ。
「うん……優しくもたくましい、そんな君にしか頼めない。気配りも出来るし、人間に対しても平然と対応出来る。あの家庭には君が必要だと思うんだ。自分のサポートよりも、彼女らのサポートに回って欲しいんだ。駄目ならいいんだ、代わりにそうだなぁ……」
(おだてている……明らかにおだてている)
傍から見ていれば、それは明確だった。けれども、恋は盲目。それにあっさりと乗せられた。
「んまぁ! えぇ、えぇ! 勿論! このアマータにお任せなさいっ!」
頬を赤らめながら、アマータは力強く胸板を叩いた。
(おぉ、頼もしい。実に……あの家庭に不足している要素だ。どれ、余裕があればいずれ覗いてみるか……)




