会議ごっこ
―エトワール ? 朝―
(こうやって集まったのは、一体いつぶりか。そもそも、こんなまともな会議らしい会議をするのは……初めてかもしれないな)
部屋には、組織に所属する役職を与えられている者が十二名集められていた。ボスを起点に、時計回りに序列に従って座っている。それぞれ役職名を持っているが、あまり使われていない。昔はどうだったのか知らないが、今では数字だけが俺達の間で飛び交っている状態だ。
しかし、一向に会議は始まらない。それは、ボスが始める気がないからだ。そこで、俺は致し方なく順に顔を見て、情報の整理をしていた。
(浸っているのだろうか……?)
「いや~全員が揃うと、圧巻だねぇ」
組織の頂点、魔術師であるボスがにこやかに言う。
「全員……もう何人もいない。一部よ」
二番目の女教皇、イザベラ。彼女は、酷く憔悴していた。
「帰りたい、帰りたい、帰りたい……あたし、もう帰りたい」
三番目の女帝のガイア。相変わらずの、面倒臭さを発揮している。誰かが触れてあげれば落ち着くのだが、皆もう慣れてしまっている。
「アルモニアの死に際は、実に美しかったですよぉ? 遠くで見ていて、震えがとまりませんでした。死というものは、おおよその者にとって恐怖であるはずなのに……彼女はその対極にいた。餌になる者の姿じゃありませんでしたぁ……」
四番目の皇帝のヴィンス。アルモニアの死の瞬間を回顧しながら、恍惚とした表情を浮かべている。
「趣味が悪い。アルモニアが望んだ死の形とはいえ、好ましくない」
ヴィンスの発言を、俺は咎める。付き合いも長いし、彼のことはよく分かっているつもりだ。そんな俺は五番目の教皇としての役割を持っている。
「まぁまぁ、彼らしくていいじゃない? そりゃ、仲間がいなくなってしまったことは悲しいけれど、望んだ形で終われたんだからいいじゃないのよ、ンフフ」
六番目の恋人。彼、いや彼女? は役職名をそのまま名前として名乗っている。この俺が探っても、何も情報がない。意図的にかなり綿密に隠されているようだ。
「ったく、めんどくせぇなァ。わざわざ来てやってんだからよぉ、さっさと言いたいこと言ってくれよなァ」
八番目の正義、バランサ。彼女は、かなり粗暴だ。常に態度も悪くて、ボスも扱いに困っている。
「ほっほっほ、初めて見る顔もあるのぉ。そうじゃのぉ」
九番目の隠者、双龍で変幻の力を持つ者。カラスではないが、その信念に賛同し組織に属している。今は、老人の姿に扮しているようだ。
「カァ」
十番目の運命の輪。カラスの鳥としての姿を好み、それを決して戻すことはない。その種であることに、誰よりも誇りを持っている。一鳴きした後、ちらりと隣に座る人物に目を向けた。気になるのだろう、その気味悪さが。無理もない。
(顔面に縫い付けられた般若の面とやらに、紫の髪。この国では見慣れぬ侍の格好。こんなのが急に現れたら、隣にいたら誰だって普通は不思議に思う)
先日、新たに加入した十一番目の力。長らく不在だった席が、ようやく埋まった。彼は何の反応も示さず、ただ座ってびくともしない。彼は応じないのだ、ボスの言葉以外には。
だからこそ、事情を知らぬ者達は気になって仕方がないのだ。その代表例が、双子達だ。
「きゃー怖い顔!」
「はん、フレイヤは怖いだろ。俺は、全然怖くねぇ!」
「はぁ!? ちょっと冗談で言ってみただけだし。うちだって、全然怖くないし。フレイは、本当は怖いんじゃないですか~」
十二番目の吊るされた男であるフレイ、十三番目の死神であるフレイヤ。二人は双子だ。しかし、絶望的な仲の悪さ。それは、期間内に改善されることはなかった。
その二人が大声で喧嘩を始めたものだから、それがボスの耳にも届いたのだろう。それに反応して、思い出したかのようについに本題を言い始めた。
「今回、集まって貰ったのはそこの新人さんの紹介の為だ。ほら、皆ちゅ~もーく!」
ボスは立ち上がり、十一番目の彼の背後へと立って肩を持った。それによって、皆はようやく静かになった。長らく待った会議の始まりだ。
「まず彼はね、巽君だよ――」




