空間の崩壊
―教会 ?―
扉がばたんと閉まったと同時、ゴンザレスはぐったりと膝をついた。
「面倒な奴は帰ったし、大体のことは片付いたみたいだぜ……ハハ。あぁ、これ返す」
死にそうな顔で、ゴンザレスは僕に開かずの扉を投げ渡す。
「ちょっ!? そんな乱暴な扱いをするなよ」
「あぁ? 別に壊れねぇんだからいいだろ。つーか、この扉を爆破したのは誰だったかねぇ。だ~れが、一番乱暴に扱ってたのかねぇ」
じーっと軽蔑するような目で、僕を見る。
「……それは、過去のことだから」
恥ずべき記憶が蘇る。しかし、その件に関しては猛省している。酷く疲れていたのだ、あの頃は。
「都合がいい、あぁ都合がいい……よっこらせ」
呆れた様子で、ゴンザレスは立ち上がる。
「――お前達、もうじきここは崩れ落ちる。急いで退散するぞ」
すると、声が響いた。その声の主は、ヴォーダンさんのものであると分かった。しかし、姿はどこにも見当たらない。近くから声が聞こえるのにも関わらずだ。
「おいおい、まさかとは思うが……実体を映せなくなるくらいに力を消耗しちまったのかよ」
それに対して、ゴンザレスは動揺する素振りもなく平然と受け答えをする。
「封印し、戒めを与えるだけで限界であった」
「見通し甘かったんじゃね?」
「お互いに入念に準備していたが故だ。しかし、これで奴の動きはとめられた。また、ひっそりと休むとしよう。良い物件は、他にどこかあるだろうか」
「……閏を手放すのか」
「随分と邪魔をしたからな。さて、帰るぞ。お前も時間がないのであろう。あの鳥族の娘と父親を連れて」
相変わらず、小鳥は歌い続けている。夢中になっているみたいだ。彼女に託したペンダントの力の影響もあるのかもしれない。
「あぁ、てか……それって、また俺がやるのか?」
「そうなるであろう。一番負担なく出来るのは、お前しかおらん」
「負担はあんだよ……あぁ、もう! やるけども! 人使いが荒いんだよ。マジで」
ゴンザレスは苛立ちながらも飛び上がり、宙に浮いて歌い続ける小鳥の手を握る。
「つか、おい。くそ親父は、どこだ!?」
「あぁ、ここだ。そんなに焦るな。わしが、そんな失態をするはずがないだろう」
空間が歪んだかと思えば、そこから眠る父上が姿を見せた。
「父上……!」
強制的に飛ばされて、どうなっているのだろうと不安に思っていた所だった。父上に何もなかったかどうか確認する為に、僕は歩み寄ろうとした。
「お前も逃げなければ、危ないぞ。空間は崩壊を始めている。出口は、その扉を開ければすぐだ。いくら死なぬとは言えども……相応のリスクはあるということは、決して忘れるな」
悲しくも僕の手は空を切った。ゴンザレスの瞬間移動によって、父上は飛ばされてしまった。悪意があるとしか思えなかった。落ち込む僕に残されたのは、ヴォーダンさんの言葉だけだった。
(逃げろって……一応、僕も外に連れてってくれてもいいのに。ゴンザレスなら、一人くらい途中下車くらい出来るだろうに。というか、僕は怪我人――)
「がっ!?」
刹那、激しく教会が揺れる。それが、傷だらけの体に沁みた。どうやら、崩壊が始まってしまったらしい。不平不満を漏らしている暇はないみたいだ。
「くそっ!」
歯を食いしばり、痛みを堪えながら扉に向かって、僕は真っ直ぐに走った。そして、必死で取っ手に手を伸ばし――。




