言葉の暴力
―アリア アスガード村 夕方―
数十分後、私は問いかけたことを後悔することとなった。
「――私様は、天才でしょう? 天才でなければ、イリュージョンを使いこなせないもの。イリュージョンは、時代の最先端。魔法だの魔術だのを使い続けるなんて、本当に遅れてるわ。そんな奴ばかりしかいないから、本当に呆れる。まぁ、仕方ないわよね。凡人以下の存在には、理解出来るようなものでもないし。天才が歩み寄ってあげないといけない。でも、本当にこの世界には凡人以下ばかり。だから、いつまで経っても魔術や魔法が、基本であり続けるのよ。それもこれも、馬鹿な人類が地上に居座っているからよ。馬鹿が居座っても、世界は同じことを繰り返す。茶番のつまんない世界になるって、どうして分からないのかしら。あぁ、馬鹿だから仕方がないのよね。こっちが大人しくしてやった結果がこの様よ。もう収集はつかないし、甘んじて終焉を受け入れるべきよね。馬鹿共は。つまらなくした責任って言うの? こっちが、色々やってあげてるんだから――」
(ちょっと聞いてみただけだったのに……私が口を挟む隙なんてちっともない。どうしよう、ずっとこれを聞き続けなければならないのかな。それっぽい情報なんて、今の所ないし……苦しいなぁ。でも、私から聞いたんだし、ちゃんと聞かないと……)
よく分からない自慢と愚痴を、永遠と聞かされ続けている。口を挟む余裕すらなくて、ただ頷くことしか出来ない。私が望んだのは会話だったのに、これでは言葉の暴力だ。
「ねぇ、ちょっと。ちゃんと聞いてる?」
「へ? あ、いや聞いてますよ……」
返答がなかったことが不満だったのだろう。でも、そんな隙を与えてくれないし、そもそも私はコミュニケーションがあまり得意ではない。相手の勢いに巻き込まれたら最後、巻き込まれっぱなしだ。望むようなことが出来るはずもなかった。
「あっそう、ならいいけど。それでね、私様はイリュージョンを使って手品師として世界中を旅してたんだけど」
そして、また彼女は語り始める。また不満を感じさせてはいけないと思い、咄嗟に言葉を挟む。
「てっ! 手品師ってどういう職業なんですかっ!?」
「今からそれを説明しようとしてたんだけど、変に会話の流れを途切れさせないでよ」
「え……」
無茶苦茶だと思った。そして、凄く悲しい気持ちになった。もしかしたら、アルモニアさんは私のことが嫌いで意地悪をしているんじゃないのかとさえ。
(難しいなぁ……あぁ……)
ちらりと扉に視線を向けてみたが、開く気配は未だない。
(早く開いて……欲しいなぁ)
何でもいいので、早く進んで欲しい。そんな気持ちになりながら、彼女の話を聞き続けるしかなかった。




