銃口を私に向けて
―アリア アスガード村 夕方―
「……はぁ、はぁ」
慣れない箒にまたがって、私は出来得る限りの最大のスピードでアスガード村へと辿り着いた。走ったり飛んだりする程度では、遅いかもしれないと思ったのだ。
けれども、その動きをコントロールするのは決して楽ではない。特別な許可は必要ないが、乗れる場所の制限がある。それを無視して、箒でここまで来た。こちらから声をかけるか、誰かと一緒にいない限りには気付かれることはあまりないとはいえ、罪悪感があった。
(ごめんなさい。でも、私にはやらなければならないことがあるから……どうしても!)
モニカさんから貰った証言が確かなら、ここに父を殺めて私に濡れ衣を着せた本人がいるはずだ。
(教会だけ、別次元だわ。雰囲気も存在感も)
村に入る前から立派な屋根は見えていたが、間近で改めてみるとその荘厳な雰囲気に気圧されてしまいそうになる。教会という神聖な建物であるとはいえ、廃れた村の中ではかなり浮いていた。加えて、この世界ならざる者の力が潜んでいるのも感じる。一つだけではなく、いくつも。その動きが激しくて、吐き気すら覚える。
だからって、こんな所で足踏みをしている場合じゃない。私は、頑張らないといけない。だって、そう誓ったんだから。モニカさんの苦労を無駄にしたくない。これが解決すれば、家族の時間が増えるはずだから。
「……よし」
意を決し、私は教会の扉に手を伸ばした。
「無駄よ。入れない」
「ひゃう!?」
突然、背後から話しかけられた。こんなにもひっそりしている村で誰かに話しかけられるなんて思わなかった為、心臓が飛び上がるほどに驚いた。慌てて振り返ると、そこには黒髪の女性がいた。
「全てが終わるまでは絶対に」
「あ、あの……貴方は何者ですか?」
この国には珍しい黒髪。整った身なり。何かを知っているような口ぶり。そして、誰かと一緒にいないのに私の存在に気が付いたこと。只者でないことは明らかだった。
「私様が誰か? 知らないなんて、貴方遅れてるわよ。まぁ、いいわ。特別に教えてあげる。私様は、アルモニア」
やれやれと呆れた様子で首を振るアルモニアさん。
「は、はぁ……それで一体ここで何を?」
(有名人なの? よく分からないわ……)
私が困惑していると、カチャリと金属音が響いた。
「……え?」
その音は、彼女の下の方から聞こえたものだった。
「私様は知ってるわ、アリア。父親殺しの濡れ衣のこと、貴方の探し物のこと。そして、それらの答えが全てここにあること。どう? ここで待つっていうのは。ううん、待つわよね? どうせ中に入ることなんて出来ないし、何もかも無駄になんてしたくないでしょう? 待っていれば、いずれ扉は開くし。大丈夫、ここで大人しくしてくれていれば……貴方を撃ったりしないわ」
そう言って、彼女は笑顔で銃を向けた。これは、脅迫だった。彼女が何者であるのか、はっきりとは分からない。けれども、彼女は私のことをよく知っているみたいだった。色々な出来事も全て。
(彼女の言葉に従っていれば、命は大丈夫。ここで死んだら、モニカさんに申し訳ない。彼女の言葉を信じてみましょう。それに、彼女は色々知っているみたいだった。何か聞き出せたら……モニカさんの力になれるはず)
「信じます、アルモニアさん。貴方の言葉。でも、ただ待つのは嫌なんです。良ければ、少しお話をしませんか。え、えっと……自己紹介も兼ねて貴方のことを知りたいなって……」
探ろうとしていることを悟られてしまうんじゃないかとドキドキしながら、私は問いかけた。




