善意だから
―アルモニア 教会地下 ?―
「……どうしよう、どうしよう。直らない。映像も映らないし。ねぇ、どうしたらいい?」
額に汗を滲ませながら、椅子に座って機械をいじるクリスティーナ。もう何時間もこの調子だ。
「知らないわよ、そんなの。それを作ったのは、貴方でしょう。自分で考えたらどう? 私様は、そういうの興味ないから」
(まさか、ロキがこんなことになるなんて。今までで一番大きなイレギュラーね。何にせよ、この娘はもう不要。可哀相だし、そろそろ解放してあげましょう)
大き過ぎる力の流動と増減、状況を察知するには困らなかった。
(適当なことを言って、彼女を欺いて……心が痛むわね。所詮は人間といえども、一応クロエの馴染みよね。一つの嘘を真実にしてあげましょう)
そろそろやらねばならないことがある。私様はステッキを取り出して、立ち上がる。すると、彼女はそれに反応して動きをとめる。
「ん? どうかしたの?」
その目には、私様が何かしてくれるのかという淡い期待が灯っていた。
「もう、いいのよ。頑張らなくて。結果がどうなったか見届けられなかったのが残念だけれど、貴方が人の記憶をねつ造する魔術を完成してくれた事実は確かだから。それに加えて、協力までして貰って……貴方には、感謝してもしきれない。本当にね」
「え? 急に、そんなこと……一体、どうしたの?」
唐突に、私様が感謝を述べ始めた理由が分からず混乱し始めているようだった。ならば、分からせてあげようと、私様はステッキを素早く回した。くるくると回転しながら、それは望んだ形へと姿を変える。
「元々、これはねロキがやりたいと言い始めたことだったの。この世界を守ろうとする者達を、その空間ごと消し去る為に。それで、貴方達を利用した。利用する為に、嘘をついたの。貴方には……クロエに会えるという嘘をついたんでしょうねぇ」
「……は?」
彼女の顔から、光が消える。
「神は、残酷だから。でもね、私様は心優しい。貴方は人間だけれど、有益な物を発明してくれた。だから叶えてあげるわ、クロエに会わせてあげる――あの世でね」
そして、見る見るうちに絶望が埋め尽くす。それは、言葉の意味を理解したことと、私様の手にある物を見たからであろう。
「意味が、意味が分からない……!」
わなわなと体を震わせて、彼女は逃げ出そうと立ち上がる。しかし、恐怖で足が上手く動かなかっただろう。足をもつれさせて、その場で無様にこけてしまった。
「そのままの意味よ。貴方は騙されたのよ。ねつ造する魔術を作らせる為にね。貴方のお陰で、私様達計画はまた一歩進んだ。その感謝の意を込めて、クロエと同じ所に送ってあげる」
「え? え? クロエは……死んで……」
「えぇ、とっくに死んでいるわ。無様にね。死ぬ必要なんてなかったのに。優しさは、命を奪うのよ。さようなら。同じ所に逝けるといいわね」
「ま、待って! お願い、や――」
乾いた音が響く。私様には、恐怖も迷いもなかった。だって、これは善意なのだから。




