使徒が逝く方法
―教会 ?―
パリンと大きな音を立てて、僕を拘束していた氷は砕け散る。
「はぁ、はぁ……」
その際に、張っていた氷の壁が薄くなったようにも感じた。僕の力で、打ち破れたのはそのお陰もあったのかもしれない。
「時経つ現を、忘れるように♪ 夜よ、月よ、眠れる子を包み込め♪」
外の空気は、一変していた。凍えるような寒さはなく……温かさが場を支配するのみであった。
「あぁ……」
さらに、あれほどまでに暴れ回っていた氷の化け物の姿はそこにはない。いたのは、氷の地面に膝をつけて許しを請うリアムと、それをゴミを見るような目で眺めるゴンザレスだった。
「――ごめん、ごめん。どうかしてたんだ、俺は」
「あぁ、どうかしてるよ」
「俺は、ただ……取り戻したかっただけなんだ。でも、目が覚めた。あの歌のお陰かな、優しい幻が気付かさせてくれた。ごめんね、ごめんね。本当にごめんね」
リアムは、何度も何度も頭をつけて謝り続ける。小鳥の歌声は、氷も心も溶かした。その決断を支えた。僕とリアムがいい例になったということだ。
「お前も、俺も……おかしいんだよ。この世界にとどまり続けているのが、いい証拠だろ。お前のくそさみぃ術のお陰で、頭が冷えたよ。でも、俺は……まだ帰れねぇ。見つけ出さねぇとならねぇ相手がいる。そいつに、託された想いがある。それを無碍には出来ねぇんだよ。だから、俺は帰らない。だが、お前は……どうする? 俺の前で、示せ。その決断を」
それに対して、ゴンザレスは特別な返事はしなかった。謝罪など興味もないみたいだった。一方的な話をして、手を高らかに掲げた。すると――。
「ぐっ!?」
体が勝手に動き、僕は魔法を発動してしまった。
「ゴンザレス、何を……」
あまりに強烈な力で、散々痛めつけられている僕には抵抗する余裕はなかった。ゴンザレスは、僕が隠し持っていた開かずの扉を出現させると、手繰り寄せた。
「な~に、ちょっと借りるだけだよ」
視線を一瞬だけ僕に向けて、不敵に笑った。そして、再びリアムに冷たく睨みつける。そんな彼は、それすらも嬉しそうな様子で受け入れていた。このようなことになってしまった後も、僕――いや、ゴンザレスに対する異様な執着は変わることはなかったみたいだ。
「リアム、お前は一つ知らねぇ事実があるようだ」
「え?」
「知っているか、異世界でも使徒も死ぬということを」
「何を言っているの? ありえない。俺を、そんなにも欺きたいの? だって、君は死なないじゃないか。俺だって、死なない。君に攻撃は通るけれど、それで血を流したりすることはない。俺だって、そもそも敵意ある攻撃は通さない! 誰も、俺達を殺せないじゃないか。神の使徒同士がお互いに殺し合うことなんで、絶対に出来ない。今回、それを証明したじゃないか! 俺達自身で!」
リアムは、怒りを露に立ち上がって詰め寄る。
「なら……俺が証明してやるよ。この身をもって、なぁ!」
それに驚く素振りも見せず、ゴンザレスは近くにあった氷山の頂点を折って、それで一切の迷いもなく――自身の腕に突き刺した。




