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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第三十四章 因果断絶
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奮い立て

―教会 ?―

 その光が小鳥を包み込んでいたのは、僕の体感的に数十秒程度。光が消え去った後には、小鳥が僕に背を向けて立っていた。


(小鳥……?)


 たった今の今まで泣いていた少女とは思えぬ、力強い後ろ姿であった。その拳は決意を握り締めていた。


(一体何があった? 考えられるとすれば……ペンダントか)


 小鳥の涙に呼応するかのように、ペンダントが光を発した。その間に何があったのか、僕には分からない。けれど、彼女にとって良い結果をもたらしたことは間違いないようであった。


(子供の背中では……ないな)


 そうさせてしまったのは、僕。僕が不甲斐ないばかりに、彼女をたくましくさせてしまった。


(このままでいいのか? このまま……見ているだけで。背負わせるだけで、本当にいいのか?)


 打ちひしがれて、無力さに嘆いて、怒りに震えているだけでは――本当の役立たずではないか。王である僕が、大人である僕がこの様では示しがつかないのではないか。


(凍らされたからなんだ。動けないからなんだ。王ならば、自らで道を切り開くのが当たり前ではないか。情けない情けない! このままでいいはずがない! このままで許されるはずがない!)


 気力を魔力を、両手にこめていく。僕だけを隔離するこの分厚い氷を破壊するに足る力が必要であったから。


「っ……!」


 この閉ざされた空間では、首を絞められているように苦しい。そもそも、氷漬けにされた時点でこのように意識もあり呼吸も出来ていることは奇跡に等しい。もしも、これが殺さない程度に確実に拘束する術であったのなら、これは必然だろう。

 しかし、今のリアムはそんなことを考えて使えるような状態ではない。それが、根強い意志であるのならこの無意識下でも影響が及ぶ可能性もあるだろうが。


(苦しい、痛い……! こんなにやっているのに、氷はびくともしない。あぁ、やはり僕には――)


「兎舞う、月の夜に♪」


 挫折しそうになった最中に、子守歌が聞こえてきた。それは、母上が歌っていたものと同じ。その歌声は、温かくて柔らかい。もしも、母上が僕の為に歌ってくれたなら、こんな感じだったのだろうか。


「コオロギが唄歌う♪ 夜の宵に耳澄ませ、密かなり身を委ね♪」


 その歌声は、僕を奮い立たせてくれた。逃げ癖のある僕の腕を、その場に留めようと引っ張ってくれた。


(あぁ、力が漲ってくる。こんな氷の壁なんて……っ!)


 体に満ち満ちていく力を確かに感じたその時、今までびくともしなかった氷にヒビが入ったのが見えた。


「……ぅううううううっ!」


 それは、僕に勇気をくれた。そして、出し得る限りの声を、力を――僕は厚い氷の壁へとぶつけた。

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