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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第三十四章 因果断絶
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受け継いだもの

―小鳥 ? ?―

『――ほら、いつまで泣いてるの。もう歌えるでしょう』


 厳しくも優しい声が、目の前から聞こえた。顔を上げると、そこには一人の女の人が立っていた。ぼんやりとした光の中で、顔ははっきりとは見えない。


「……貴方は?」


 私の目の前には、凍ってしまった巽様がいたはずだ。それに、氷の怪物が暴れまわって、ゴンザレス様が対峙していた。周りはとてつもなく寒くて、ゴンザレス様の起こす炎がなければとっくに死んでいたかもしれない危険性がある場所だ。


『私は、貴方』

「私?」


 普通であれば、信じられないようなこと。けれども、様々な事情を知る私には自然と受け入れることが出来た。このようなことが、一つ二つあっても何らおかしなことはない。


『並行世界から来た貴方。この世界での役目を終えて、私は消滅した……はずだった。だけど、意識の一部だけがこうして残っていたの。それから、ずっと巽様を見守り続けていた。結構、手のかかるご主人様だから』


 表情はよく見えないけれど、きっと笑っているのだと思う。懐かしむような、そんな声色だったから。


『もう、私には直接的に彼を救う手段はない。誰かに頼ることでしか成せない。でも、それは無力ではないわ。無力だと思うから、無力になってしまうの。無力な人なんていない。誰だって、力を持っているんだから。それは、貴方もよ。貴方は、歌術(かじゅつ)という特技がある。私が、それを生かせるように支えるわ。だから、もう泣くのはやめて。自分に自信を持って。そして、歌って……』

「でも、何を歌えばいいのか……私は、この国の歌なんて……」

『歌いたいと思ったものを歌えばいい。その歌に、想いを乗せるの。言語が違ったとしても、想いは届くから。ほら、立って』


 彼女は、私の腕を引っ張って立ち上がらせる。その際に、はっきりと見えた。もう一人の私の顔が。


「お母さん……」


 ふと、そう口走ってしまった。違うのは分かっているのに。でも、そう思うくらいに母の面影を感じた。


『……似てるってことかな、ありがとう。そうだ、折角だからあれを歌えばいいんじゃないかな。ほら、よく眠れない時にお母さんが歌ってくれた子守歌。あれなら、よく知ってるでしょう?』


 母が歌ってくれた子守歌は大好きだ。眠る時だけじゃなくて、悲しかったり怖かったりした時にも歌って貰った。聞くだけで安心出来る、素敵な歌だった。


『落ち着かせてあげて、孤独に苦しむ彼を。優しい歌で、包み込んであげて。お母さんが、私にそうしてくれたように――』


 その言葉の直後、光と共に彼女も消えていく。けれど、彼女から貰った温もりは、私の心の中に確かに残っていた。

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