隔てる氷
―教会 ?―
ゴンザレスに言われて、小鳥は致し方なくといった様子で歌おうとした。
「ぁ、う゛う゛……んん」
しかし、この寒さだ。声が上手く出なかったようだ。ゴンザレスのまとう炎のお陰で凍死することはないが、それでも寒いことに変わりない。
「どうした?」
「声が出しにくくて……喉が痛い……」
小鳥は、喉を押さえて苦悶の表情を浮かべる。
「マジか……あ、小鳥も炎まとえば!? 俺みたいに。寒いけど、それでも少しはマシだぜ」
「え!? で、出来ませんよ……」
何を言っているのか、そのやり方でやれば普通に死んでしまう。丸焼きになってしまう。そんなの見たくはない。ゴンザレスだから出来る技であって、命に終わりある者には不可能である。
「む~やっぱり、そうか。でもなぁ……」
(やっぱりって分かってたなら言うなよ。小鳥は、真面目なんだから気にしてしまうだろう)
ゴンザレスの無神経な発言に苛立ちを感じた。冗談を言って、緊張をほぐそうとしたのだったら悪手だ。
「ォオオ……」
そんな状況の中、ついに氷の塊が手当たり次第適当に周囲を殴り始める。ゴンザレスを見つけられなくて、しびれを切らしたのだろう。このままでは、いずれこちらにも影響が来る。
「ヤベっ、そろそろ相手しねぇと。小鳥、どうにか……頼む。俺も、頑張るから!」
一度だけ深く頭を下げると、ゴンザレスは高く飛び上がって氷の塊へと向かっていく。すると、すぐにゴンザレスに注意を向けて攻撃を始めた。
それを、ひらりふわりとゴンザレスはかわす。炎をまとっているとはいえ、あの寒さの中で身軽に動けるのは流石だ。
(あれがリアムなのか、あれが……)
「頑張れって言われたって、うぅう……」
その様子を、小鳥は僕の陰に隠れながら見ていた。どうにかしたい、という思いはあるのだろう。
(あぁ、声の一つでもかけてあげられたなら……いや、でもこんな僕の言葉程度では、彼女を奮い立たせることなんて出来ないだろう。せめて、この氷が溶けたら……いや、溶けてしまったら小鳥を隠すものもなくなってしまう。今の僕の存在意義は、こうやって在ることくらいだ)
体の一つも動かせず、願い祈ることくらいしか出来ない。思いで湧き上がる熱も、僕を覆う厚い氷の前に無力でしかなかった。
「巽様……私は、どうすれば良いのでしょう」
何も出来ない自分を悔いていると、小鳥が氷に抱き着いて涙を流し始めた。一枚の氷が僕らを隔てて為に、その感触や温もりは感じられなかったが……思いはしっかりと伝わった。
何かをする方法はあるけれど、その前に大きな障害がある。そのもどかしさは、痛いほど分かる。僕は氷、彼女は寒さ。どれもこれも、この空間特有の妨害であった。
「うぅううう……悔しいです。私が守らなければならないのに。だって、巽様は大人である前に王なのです。私は、子供である前に専属使用人なのです。私は……絶対に……ううぅ……!」
溢れた涙は頬を伝い、ぽとりぽとりと落ちる。そして、その涙がペンダントへと落ちた時――優しくて温かそうな眩い光が小鳥を包み込んでいった。




