凍てつく世界の中で
―教会 ?―
寒い。寒くてたまらない。体は本能的に熱を発そうと震えるが、体温は一向に上がらない。何故なら、僕そのものの体が氷になってしまっているのだから。
不幸中の幸いだったのは、僕そのものが氷になったことで死角が出来たことだろうか。
(寒過ぎて体中が痛い。あぁ、でも、この痛みは……寒さのせいだけじゃないよね。くそ、老人であるとはいえ十六夜の使っていた体を喰っておくべきだったかもしれない。って、僕は何を考えているんだ。父上が見ている所で、そんな醜態を晒す訳にはいかない)
奇跡は託した。二人なら、きっとどうにか出来るはず。僕が託したペンダントには、不思議な力が宿っていた。
元々の所有者は、並行世界から来た小鳥。彼女はもういなくなってしまったけれど、時折反応を見せることがある。その力で、僕を何度も救ってくれた。こんな時にまで、何かに頼らなければならない自分が情けなかった。でも、それでも――すがりたかった。
(お願い、頼むよ。僕達を解放してくれ。そして、あのリアムだった者も救ってやってくれ。ロキさんの思うがままにさせてしまったら、本当にこの世界は壊れてしまう。そうなれば、君の思いが全て無意味になってしまう)
「なんだぁ!? いつから、そこにいたんだよ!? おぉん!? 馬鹿の彫刻アートが出来上がってんじゃねぇか!」
すると、ようやく僕らの存在に気付いたのか、ゴンザレスがこちらに降り立った。そして、僕を見てわざとらしく驚いた。
「ゴンザレス様……巽様が、私を庇って……うわぁあああん!」
「庇う? おいおい、そんなこじゃれたことしたのかよ? てめぇは、ダセぇ方が似合ってるぞ。聞こえてっか、お~い」
ゴンザレスは薄ら笑いを浮かべて、顔を近付ける。憎たらしい、体が動いたなら殴ってやりたい。
(こっちが動けないからっていい気になりやがって。覚えていろ、絶対に動けるようになってやる。そうしたら、必ず十回は殴ってやる)
込み上げてくる怒り、冷え切った体が僅かではあるが内面から熱を発する。やはり、僕はゴンザレスが嫌いらしい。
「キンキンに凍ってんなぁ。余裕がありゃ、写メってやりてぇんだがなぁ。それにタイトルをつけるなら、馬鹿の氷像かなぁ。でも、そんなことやってる暇ねぇんだよ。俺のお友達様が、あんな状況でよぉ……かっこつけるのはいいが、壊されんなよ? よし、小鳥歌え」
「え、どういうことですか?」
「それ、それ」
困惑する小鳥の胸元を指差すゴンザレス。どうやら、僕の託したペンダントに気付いてくれたらしい。
(まぁ、これくらい気付いてくれないと困る。この氷を溶かして、必ず自由の身にして殴らせて貰わないといけないんだから)
「お前の歌の力……それに敵意はないだろう? 誰にだって平等で、祈りと救いと優しさがある。それに、歌は心に響かせるもの。もしかしたら、届くかもしれねぇ……あいつに。頼む、力を貸してくれ。俺は、この世界を……守りたい」




