奇跡を託す
―教会 ?―
ヴォーダンさんの力で、吹き飛ばされた僕らが辿り着いたのは寒さと熱さが共存する異様な場所。そこでは、轟音が響き渡っていた。
「――人間辞めてんじゃねぇよ! 馬鹿リアムさんよぉおおっ! そんなんじゃ、殺せねぇだろうがよぉおおっ!」
氷と氷の狭間から、真っ赤な炎が姿を現す。よく見れば、それはゴンザレスだった。炎をまとって、動く氷の塊に突進していく。
(あの氷の塊に、リアムって言ったのか?)
それが、人だったという形跡はない。いや、普通に考えて人だと思えるはずがない。デタラメを言っているのではないかと思ったが、この状況でそんなことをする理由はない。
「ォオオ……」
氷の塊は、無差別に冷気を撒き散らす。
(まずい、とりあえず小鳥を守らなければ)
唖然としている小鳥を守る為、僕は咄嗟に炎で防御を展開する。しかし、冷気は炎すらも一瞬で凍らせた。
「なっ!?」
「え……」
炎が凍っていく音で気付いたのか、小鳥がその場で尻餅をつく。炎すらも氷に変える冷気。もしも、あんなものが小鳥に触れてしまったら――起こりうることは容易に想像出来た。
気が付けば、体が勝手に動いていた。僕の身は、どうにでもなる。この命に今の所終わりはないし。傷だらけの体では、出来ることなど限られているから。
「くあぁあっ!?」
冷気が、小鳥に触れるより前に、何とかその間に割って入ることが出来た。小鳥の代わりに、冷気を浴びた僕の体は凍り付いていく。体の奥底から冷えていくのが分かる。部屋の冷気を温かいと感じてしまうほどに。
「ひぃっ!? 巽様、どうして!?」
「くっ、子供を守るのは……大人の役目だろう。それに、今の僕に出来ることなど……大丈夫、死ぬほどのものではないよ。気にすることはない」
「そんな! そんなこと! 私のせいで……あぁ、今すぐお体を温めましょう!」
見る見るうちに、彼女の目に涙が溜まっていく。責任など感じる必要はないのに、魔法を起こして僕の体を温めようとする。
(こんなに僕の近くにいたら、小鳥までも凍ってしまうかもしれない)
「いい、いいんだ。こんなことに魔力を使う必要はない。僕は大丈夫。それより、ゴンザレスを……支えてや……って……くれ」
体が固まる直前、僕は余力を使って小鳥を少しだけ吹き飛ばした。そして、ある物を彼女に託した。完全に凍った後にも、僕には意識があった。凍り付いた視界では、はっきりとは見えないが全体像を把握することは出来た。
(それは、元々君の物だ。僕が持っているよりも、きっと君が持っていた方が何らかの役に立つはず)
そして、僕は柄にもなく静かに祈り続けた。状況の好転を、奇跡を――。




