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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第三十四章 因果断絶
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私も頑張る

―アリア モニカの家 夕方―

「――なんだか、寒くない?」

「何言ってるの? もう夏じゃない。しかも、家の中は蒸し暑いわよ。アリアさん、熱でもあるんじゃないの?」


 夕食の準備をしながら、隣でレシピ本を眺める少女に違和感について問いかけた。


「う~ん、それはそうなんだけど……でも、そういう寒気じゃないんだよね……」


 その妙な寒さを感じているのは私だけであるらしい。その時、玄関から音がした。モニカさんの帰宅した音だ。それに、子供達は素早く反応する。


「お母さん~!」


 母親の帰りを何よりも待ち望んでいた少年は、おもちゃを投げ出して一目散に玄関へと向かう。


「どうしたのかな? いつになく帰りが早いけど……」


 対照的に、少女は懐疑的だった。彼女の思いも分かる。モニカさんの帰りは、いつだって遅かった。帰ってこない日だってあるくらい。まだ僅かに日の光も感じられる時間に、彼女が家に帰ってくるなんて珍しいにも程があったから。


「仕事が早く終わったのかもしれないよ?」

「う~ん。そうだといいんだけど……」

「お母さん、お母さんってばぁ! ねぇ~、ねぇってば!」


 そんな話をしていると、足音がこちらに近付いてきているのが聞こえた。しかし、何やら騒がしい。


「どうして、無視するの? 嫌いになったの? ねぇ、お母さん~」


 寂しそうな少年の声、一体何があったというのだろう。ただ、甘えているという様子ではない。


「ここにいたのか、お前達」


 構って欲しそうにまとわりつく少年を押しのけて、モニカさんが姿を見せる。そのせいで倒れてしまった彼には目もくれず、私へと迫った。冷たくて、恐ろしい剣幕だった。今まで見てきた、彼女とは全く違う。不気味だった。


「黒き化け物の居場所が分かった。恐らく、お前の追う相手だ。先ほど、目撃された。またとないチャンス、奴に関しては目撃証言がほぼないからな。行くなら、今だ。どうする?」


 モニカさんが教えてくれたそれは、私とって長い間待ち望んでいたものだった。


「それが、本当なら……行きたいです」

「そうか、なら今すぐにでも共に――」

「いえ、私一人で行きます。場所さえ教えて下されば、問題ありませんから」

「何?」


 私の言葉は予想外だったのか、彼女は目を見開いた。


「危険なのは、重々承知しています。けれど、これ以上貴方だけに任せる訳にはいかないと思って。それに、何かあったとしても……私には特別悲しむ者もおりません。黒い獣に関しては、私に任せて頂きたいのです。モニカさんには、守るべき者……子供達がおりますから」

「こど……も? うぅ……!」

「お母さんっ!」


 モニカさんは、頭を押さえてうずくまる。それを心配して、すぐに少女が駆け寄った。


「大丈夫ですか、モニ――」

「気に、するな。何が起こって……いや、そんなことはいい。行くのなら、行け。場所は、アスガード村。後で、すぐに……追いつく。少し疲れた……眠らせて貰う……」


 そして、彼女は目を瞑った。様子がおかしかったのは、疲労のせい――なのかもしれない。


「お母さん!? も~急に帰って来たと思ったら、床で寝るなんて」


 困惑しながらも、ようやく彼女は安心した様子で笑顔を浮かべた。そして、見上げて私に問う。


「行くの? 危なそうな場所に……」

「うん、こう見えても私はやれば出来る子だから。いつも、お母さんにばかり任せていたしね。そろそろ、私も頑張るよ。モニカさんには、無理しないでって伝えておいてね。それじゃ」


 アスガード村、噂には聞いている。身元が判明した化け物達の出身地が、そこであると。下手には動けないから、モニカさんの指示があるまで待っていた。ついに、この時が来たのだ。私は、必ず――真犯人を見つけ出してみせる。

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