散る魔剣
―ゴンザレス 教会 ?―
リアムが発生させていた氷魔法の威力が、弱まっていく。俺の問いかけが、思っていた以上に効果的だったらしい。卑怯かもしれないが、ここで縁に終止符を打とう。
(ちょうどいい。時間稼ぎ以上の成果じゃねぇか。仕留め損ねしたりしねぇ。この魔剣で必ず、息の根をとめてやる。神の力がまったくの別物ならば、不死身の加護とは違うはず。それに魔剣は、神を討つ為に本来作られた物。効果はあるはず……!)
俺は忍ばせていた魔剣を取り出して、突っ立つリアムの首筋を斬ろうとした。しかし――。
「な……!?」
金属がぶつかり合うような音を立てて、魔剣は弾かれた。その衝撃で、俺の手から滑り落ちる。
(俺の作った魔剣だぞ、こんなこと許されるのかよ!?)
「……ごめんね、俺を殺したいと思うほど君は不幸なんだね。今まで気付かなくてごめん。だけどね……それでもね、俺は君といたい。俺を幸せにしてくれる存在は、もう君しかいないんだ」
呆気に取られる俺を見ながら、リアムは儚く微笑んだ。
「なんで……魔剣が……」
「それが、俺に授けられた能力だから。殺意は、俺に味方する。加えて、君を捕まえやすい氷の魔法を強化して貰えた。俺は、俺の為にこの世界に来た。幸せを見届けて、自分自身も幸せになる為に。嘘があろうがなかろうが、それに変わりはないよ」
(チートじゃん。普通に考えて、戦うならば殺意くらい抱く。随分と糞野郎じゃねぇか、こいつに力を授けた神様はよぉ……)
「くそ……どこまでも厄介な!」
俺は攻撃を受けるし、その分のダメージだって負う。けれど、リアムはそもそも攻撃を受け付けない。随分な差だ。フェアじゃない。
「ロキ様がどれだけ嘘を重ねても、俺は信じる。だって、現に俺に夢を見せて下さっているんだからぁああ! ねぇ、また俺を幸せにしてよ! アハハハハハハ!」
彼は、強い魔力を再びまとってけたけたと笑う。その真理に気付いても、信念を貫き通すと宣言した。本物の狂人。俺が、彼を変えてしまったのだろう。全てを狂わせてしまったのだろう。それでも、俺にだって成し遂げなくてはならないことがある。
(こんな所でやられる訳にはいかねぇんだよ!)
俺は、魔剣を呼び寄せようとした。しかし、それは阻まれる。まるで、ビーチフラッグのようにリアムが奪ったからだ。
「フフフ、俺の勝ち。かっこいいね、これ。流石は巽だ。まさか、こんな凄い物を俺の為に使ってくれようとするなんて嬉しいなぁ。でも、これを君に持たせたままでいたら、魔剣の力で立ち回られてしまうだろう? だから、ごめんね」
申し訳なさそうに頭を下げて、彼は魔剣を凍らせた。彼が、何をしようとしているのか瞬時に理解出来た。
「やめろぉ゛ぉ゛ぉ゛っ!」
出来るうる限りの最大限の魔力を炎に込めて放った。
「バイバイ」
彼が拳を握ると、炎が届くよりも前に空しくも呆気なく――凍った魔剣は砕け散った。




