人生に答えあり
―リアム ?―
右も左も分からない。周りも、幸せそうな人ばかりで怖い。勉強の内容にもついていけない。そんな状態でも、単位は貰えた。不思議なことに、誰にも何とも言われなかった。おじさんの力の大きさを感じることしか出来なかった。そんなつまらない人生を送る中、ついに運命の日は訪れた。
『――リアムだっけ』
何の前触れもなく、話しかけられた。今まで一切関わりのなかった人、遠くで見ているだけの存在だった。巽は、永遠に関わることのない存在だと思っていた。輝いている彼らとは、住んでいる世界が違うのだと。
『なんで、いつもぼっちなんだ? 授業中もぼーっとしてよ。学校来てるのに、つまんなくね? 友達を作る訳でもなく、勉強をする訳でもない。なんで?』
『分からないから……です』
『ふ~ん。じゃあ、俺が教えてやるよ。俺が、学校生活変えてやるよ。友達、なろうぜ』
それから毎日、しつこいくらい巽は話しかけてきた。偶然、取っている授業は同じものが多かった。授業が終わる度に、丁寧に教えてくれた。学のない俺にでも分かりやすくて、自然と理解出来た。
学校が終われば、一緒に遊びにだって行った。彼経由で、関わる人が増えた。学校に行くことが、惰性ではなくなった。目標が出来た、夢も出来た。
『……巽、学校って楽しいね。俺知らなかった。君が見せてくれなかったら、永遠に分からなかった。きっと、宝の持ち腐れって奴になってた』
『それって、俺のお陰だろ?』
『うん! 勉強も君のお陰で、すっごく分かるようになったんだ。家でもやってるよ。寝たくないって思うくらいなんだ。勉強するって楽しい。知らなかった世界、先人達が見てきた世界が見える感じがして……たまらない! って感じさ』
『いや、そこまでしろとは言ってないけど……』
『友達だって出来た! 君の友達は個性的だから、話すだけでも刺激的さ。彼らから学べることもある。それもこれも、全部君のお陰! 流石は、俺の憧れ! 俺の友!』
『おう……そうだな、うん』
巽と釣り合える人になる。いずれは、彼のようになりたい。それが、俺の目標であり夢だった。だから、彼と一緒に卒業したかった。友達として、一緒に道を歩んでいきたかった。先導者として、俺を導いて欲しかった。
『……違うんだよ』
そんな会話の最中に、巽が珍しく元気なく呟いた。
『巽? どうしたの?』
『いいや、何も……』
これが、元いた世界で話した最後の会話だった。次の日、彼は学校に来なかった。巽は退学していた。友達である俺に何も告げず、何も示さず。
俺は幸せだったのに何故? 巽がいなければ、俺の幸福は揺らぐ。独りになってしまう。だから、教会で祈り続けた。巽に会いたい、幸せになりたいと。
この時の俺は不幸だった。けれど、周りの人達は変わらぬ日常を過ごしていた。ロキ様の仰ったことが嘘だと証明する材料は、俺の否定してきた道にあった。記憶の蓋が落ちて、続々と忘れようとしていた過去が蘇っていく。
――今、こうしている瞬間にも俺は幸福で、巽は不幸。その相反する関係は、現実を突きつけた。




