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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第三十四章 因果断絶
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夢も目標もなく

―リアム ?―

 俺を拾ってくれたマミィの親戚、顔など記憶のある内に合わせたことなどなかった。ダディを失ってから、マミィが毎日電話をしているのを見ていた。唯一、連絡がついたのが彼だった。マミィは、彼を「おじさん」と言っていた。彼が何者であるのか、それ以上のことは何も知らない。聞こうとも思わなかった。

 ただ、一つはっきりしていたのは、彼が真っ当な人間でないことだった。身内や親戚には、とても優しい人だった。けれど、それ以外の時――違う顔を覗かせる。


『守れねぇ約束はしちゃいけねぇなぁ』

『ごめんなさい、ごめんなさい……どうか、ご慈悲を』

『前例は作れない、ママに言われなかったか? 嘘をついてはいけませんよって……』

『や、やめてく゛れ゛ぇ゛え゛!』


 屋敷内で響く銃声も珍しくなかった。絨毯が、血に染まっていることもよくあった。言い争う声もあったし、一般市民から向けられる視線も冷たかった。

 でも、俺には逆にそれが居心地が良かった。物心がついた時には、既に身を置いていた環境だったから。血の臭いも銃声も争う声も、向けられる白い目も全てが俺の日常だったから。


『――こっちへおいで。リアム。お前にいい話がある』


 彼は、使い終えた銃を撫でながら柔らかな笑みを浮かべた。


『何ですか、おじさん』

『お前、学校に行ったことがないのだそうだな。この世は、学。馬鹿は野垂れ死ぬ世界だ。俺は、ファミリーとしてそんなリアムは見たくない。そこで、いいものを用意した。これだ』


 懐から一枚の紙を取り出し、それを俺に差し出した。受け取って見てみると、文字が沢山書いてあった。読み書きが出来ない為、何も読み取れなかった。


『あの……これはなんて書いてあるんですか』

『ここには、学校への入学許可の内容が記してある。来年から、学校へと通うことが出来る。夢の学生生活だ』

『学校? でも、俺は基本的なことは何も……』

『問題ない。もう決まっていること。猶予はあるし、評判のいい家庭教師を招いている。読み書きは、それで学べばいい。お前ならば、成せる』


 本当は、学校になんて行きたくなかった。経験もないし、知識もない。けれども、彼には拾って貰った恩があった。多分、良からぬ方法で俺の入学を取ってきた。表にも裏にも顔が利く。それによってかけさせた手間も苦労も、今までのこともあって断ることは出来なかった。

 そして――月日は流れて、俺は学校の門を跨いだ。読み書きと最低限のマナーだけを身に着けて。何の目標も夢もなく、言われるがまま。

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