夢も目標もなく
―リアム ?―
俺を拾ってくれたマミィの親戚、顔など記憶のある内に合わせたことなどなかった。ダディを失ってから、マミィが毎日電話をしているのを見ていた。唯一、連絡がついたのが彼だった。マミィは、彼を「おじさん」と言っていた。彼が何者であるのか、それ以上のことは何も知らない。聞こうとも思わなかった。
ただ、一つはっきりしていたのは、彼が真っ当な人間でないことだった。身内や親戚には、とても優しい人だった。けれど、それ以外の時――違う顔を覗かせる。
『守れねぇ約束はしちゃいけねぇなぁ』
『ごめんなさい、ごめんなさい……どうか、ご慈悲を』
『前例は作れない、ママに言われなかったか? 嘘をついてはいけませんよって……』
『や、やめてく゛れ゛ぇ゛え゛!』
屋敷内で響く銃声も珍しくなかった。絨毯が、血に染まっていることもよくあった。言い争う声もあったし、一般市民から向けられる視線も冷たかった。
でも、俺には逆にそれが居心地が良かった。物心がついた時には、既に身を置いていた環境だったから。血の臭いも銃声も争う声も、向けられる白い目も全てが俺の日常だったから。
『――こっちへおいで。リアム。お前にいい話がある』
彼は、使い終えた銃を撫でながら柔らかな笑みを浮かべた。
『何ですか、おじさん』
『お前、学校に行ったことがないのだそうだな。この世は、学。馬鹿は野垂れ死ぬ世界だ。俺は、ファミリーとしてそんなリアムは見たくない。そこで、いいものを用意した。これだ』
懐から一枚の紙を取り出し、それを俺に差し出した。受け取って見てみると、文字が沢山書いてあった。読み書きが出来ない為、何も読み取れなかった。
『あの……これはなんて書いてあるんですか』
『ここには、学校への入学許可の内容が記してある。来年から、学校へと通うことが出来る。夢の学生生活だ』
『学校? でも、俺は基本的なことは何も……』
『問題ない。もう決まっていること。猶予はあるし、評判のいい家庭教師を招いている。読み書きは、それで学べばいい。お前ならば、成せる』
本当は、学校になんて行きたくなかった。経験もないし、知識もない。けれども、彼には拾って貰った恩があった。多分、良からぬ方法で俺の入学を取ってきた。表にも裏にも顔が利く。それによってかけさせた手間も苦労も、今までのこともあって断ることは出来なかった。
そして――月日は流れて、俺は学校の門を跨いだ。読み書きと最低限のマナーだけを身に着けて。何の目標も夢もなく、言われるがまま。




