幸せと不幸
―ゴンザレス 教会 ?―
俺だって、生半可な思いでやってない。痛みには慣れてる。これくらいのことで音を上げるような男じゃない。
「う゛ら゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!」
歯を食いしばり、覚悟を決めて――俺は自身の身を炎で燃やした。強い魔力を込めて、激しく燃えるように。それでも、俺の体は傷付かない。ただ炎に包み込まれているだけ。
だが、それに伴う代償は当然あった。体は熱く、痛い。それでも、燃やし続けた。突き刺さった氷を溶かす為、凍てついていた肌を元に戻す為。
「巽!? 何を考えてるの!? 駄目だ、そんなことをしたら……もっと力を強くしないといけなくなる! もっと痛くなっちゃうんだよ。やめてよ、俺はしたくないよ。そんなこと。大人しくしててよ、お願いだからさぁああ!」
「う゛う゛う゛……」
声にならない音が出る、喉も痛い。気を失ってしまいそうで、失わない。そんな苦しみの中で、必死に自分を鼓舞する。
(もっと強く強く強く! 大丈夫、なんてことない。俺だって強い、強くなった! 気持ちで負けたら、もう終わりだ!)
「アイス・プリズン!」
燃え盛る炎ごと、俺を捕らえる気なのだろう。魔法の名前的に、そう判断出来た。この魔法に、完全に捕えられたら終わり。その前に、逃げなければならない。
「気炎万丈! 俺は、負けねぇぇええええっ!」
気合を入れて、血を吐きながら俺は叫んだ。すると、俺を燃やしていた炎はさらに激しくなり、リアムの起こした魔法を飲み込んだ。
「そんなっ!」
体には相変わらず氷は突き刺さってはいたが、凍っていた部分は溶けて体は動かせるようになった。すぐさま、炎の魔法を解いて床を蹴って飛び上がる。
「生憎、俺はしぶといんでね。加えて、不死なもんで。それ相応の痛みはあるけど。もう元気だぜ?あぁ、知ってたか? わりぃわりぃ」
気丈なフリをして、リアムを見下ろす。ぶっちゃけ、全身火傷相応の痛みははっきりと残っていた。それでも動けるのは、体は何ともないから。本当にただ痛いだけ。泣き叫びたいくらいだが、そうもいかない。
「どうして!? どうして分かってくれないの!? 俺は、こんなにも思いを伝えているのに! 俺を幸せにしてよ! 友達になってよ! 君じゃなきゃダメなのに!」
彼は、怒りを露わに何度も地団駄を踏む。
「お前は、しつこいね。お前の幸せなど知ったことか。それは、俺の幸せじゃねぇ。不幸だ」
「違う、そんなはずない。だって、ロキ様は……俺の幸せは、絶対に全世界の皆の幸せだって言ってた。誰かの幸せは、皆の幸せなんだって。俺が幸せに感じることは、皆幸せ。不幸に感じることは、不幸だと。その言葉に嘘なんてない!」
よくもまぁ、そんな上っ面だけの言葉を信じようと思ったものだ。全世界の皆が同時に幸福になったり、不幸になったりなんてことはあり得ない。
「そりゃ嘘だぜ。浅はかなのか、適当言ったのか……何にしても、ありえねぇ。じゃあ、問う。お前が家族と幸せに暮らしてた時、周りも皆幸せだったのか? 誰一人不幸じゃなかったのか? お前が家族を失った時、周りも皆不幸だったのか? 誰一人として笑わず、涙を流していたのか?」
俺がそう問うと、リアムは目を見開いて固まった。




