雰囲気作り
―ゴンザレス 教会 ?―
リアムは、氷の魔法を中心に戦術を展開をしていた。それに、対抗するとするなら炎だ。魔法は、基本的に対となるものがある。それによって、バランスが保たれている。お陰で、対策は取りやすかった。後手に回っても、それなりにはどうにか出来た。
「逃げないで、防がないで。俺は、勝たないといけないんだ。君に! じゃないと、幸せの中終われない! あぁ、そうか。この程度のことじゃ、君も防いでしまうよね。分かった、ちょっと疲れるけど……俺頑張るよ、アイス・レイン!」
どこからともなく降り注ぐ、鋭い大量の氷の雨。
(くそめんどくせぇ、でも氷の魔法を変わらず使い続けてくれてサンキューって感じだぜ。氷なら、この炎で溶かしちまえばいい!)
範囲が広く、一つ一つ対応していくのは億劫だった。だから、炎を俺の周りにまとわせた。奴みたいに、この魔法に名前を付けるとするならば、ファイヤー・シールドだろうか。多分、他の名称は既にあると思うけれど。雰囲気作りは大事だ。
「勝たせる訳ねぇだろ! こっちだって、色々あんだよ。ファイヤー・シールド!」
数は多いけれど、一つ一つの氷は小さい。だから、これで十分しのぎ切れると思った。だが――。
「なっ!?」
炎の守りをすり抜けて、氷の雨は俺へと降りかかった。姿形を変えず、鋭さを保ったまま。そして、逃げる間などなく、俺の体に突き刺さった。
「があ゛あ゛っ!」
至る所から、激痛が走る。それと共に、寒さまで襲ってくる。まだ周りには、炎があるはずなのに。炎の熱の力を掻き消すほどだ。恐る恐る体の様子を見てみると、氷の突き刺さった場所から、徐々に体が凍っていた。
「痛いよね、苦しいよね。ごめんね、でもこうしないと……君は俺から逃げてしまうから。でも、良かった。どれだけ苦痛を与えても、君は傷にもならないし、死なないから。知ってるよ、それが君に与えられた神様からの力なんだって」
(ヤバいヤバい。マジでヤバい。時間稼ぎにもなれてねぇ、こんな所で氷になって終了とか最悪だ。大嫌いなクレイジー野郎と、世界の終わりを見届けるとかどんなバットエンドだよ。どうにかしねぇと、ここで何もしなけりゃマジでそうなっちまう。俺が、計画の破綻の原因になっちまうかもしれねぇっ! なんで炎を平然と氷がすり抜けた? 魔力が、俺よりリアムの方が強かったってことか? くそったれ、くそったれっ!)
必死に思考を巡らせる。そんなに時間もない、俺の体が氷になったら終わり。それが目に見える分、余計に焦った。どうにかしなければと。
「不死って、人類の憧れだよね。だけど……それって幸せなのかな。例えば、今の君みたいに永遠に相応の痛みを味わい続けることになるかもしれない。あ、でも大丈夫。今のは、一般の例として挙げただけ。君の場合は、永遠じゃないよ。この世界が終わるまでのことだから。その頃には、感覚も麻痺してるよね。この力だけ、俺の神様がパワーアップしてくれたんだ。奥さんと再会出来たお礼だって……アハハ! お陰で、すぐに君を捕まえられた!」
勝ち誇った表情で、リアムは俺に近付く。長々と語りながら。しかし、見えた。そこにある油断が。戦い慣れていない証拠。中途半端な証拠。時間稼ぎをする為に、俺はこの身を賭ける。たとえ、それ相応の痛みを伴うことになっても。




