狂人の力
―ゴンザレス 教会 ?―
「ねぇ、ねぇ? どうしたらいい? 教えてくれたら、ちゃんとその通りにするからさ。お願いだから、俺を独りにしないでよ」
リアムは、まくしたてながら俺に迫る。目の色が変わった。彼を包む雰囲気も。
(キモい!)
狂気しか感じないその言動。本能的な感覚で、俺は逃げた。
「どうして逃げるの? あぁ、俺がまだ君に相応しくないからだよね。でも、俺にはいまいち分からなくて。教えてって言ってるじゃないか、じゃないとどうにも出来ないんだよぉおおっ!?」
すぐ横を、リアムの放った氷塊がすり抜ける。魔法の発動の瞬間が見えなかった。その予備動作も、全くなかった。
「というかさぁ、そもそも手紙を読んでここに来てくれたんでしょう? 君から来てて、逃げるなんて酷いよ。俺は、君と逢えるかもってずっと楽しみにしてたのに。酷い……酷いよぉおお!」
今度飛んできたのは、鋭利な氷柱。それが、まるで矢のように俺を狙う。
異世界に来たのは、俺の方が先。魔法なんかも取得したのは、俺の方が先だったはずだ。なのに、ここまで技量を上げているとは。もう既に負けていた。元の世界でも負けて、こっちの世界でも負ける――不快だった。
「読みたくて読んだんじゃねぇし。お前のことを気にしてきた訳じゃない。お前のことは、不可抗力だった。なんかよく分からん力で、お前と一対一になってるだけなんだからよ」
何の前触れもなく、俺の元へと届けられた手紙。一枚の紙に、二人の人物からのメッセージが記されていた。一人は十六夜、もう一人がリアムだった。
『巽へ 俺は、幸せになる為にこの世界に来たんだ。でも、このままいけばこの世界も俺も不幸になる。だから、最後に幸せになる為に俺はこの世界を終わらせる。そこに、君もいて欲しい。こっちの世界の君よりも、やっぱり本物の君がいい。友達と一緒に幸せになれるなんて、夢みたいだよね。君も分かってくれるって思う。今日、やっと前進する。だから、待ってるよ――』
今日、この手紙を受け取った俺はすぐさま閏に、いやヴォーダンに報告した。彼は、俺の協力者。この世界を、守る為に戦っているのだとか。それに反する行為は、逐一報告しなければならなかった。結果、俺はこの国に瞬間移動で来る羽目になった。幼い小鳥を連れて。
あいつの計画通りに進めば、それでいいけれど。もしも、どこかで破綻するようなことがあれば――全てが無意味になる。信じるしかない、ヴォーダンと小鳥を。
(くそ、結局戦うしかねぇ。時間稼ぎ……くらいなら俺にだって出来るよな。戦ったら、正直リアムの思う壺になるが……負けなきゃいい。大事なのは、全体を通した勝利!)
「まーいいや。お前、くそしつこいし。ちょっと黙らせてやる。軽率にくそみたいな手紙を飛ばしてきたこと、後悔させてやるぜ!」




