執着
―ゴンザレス 教会 ?―
大嫌い――そう告げた瞬間、あれほどうるさかったリアムがぴたりと静かになった。本当に、俺が友達なのだと思い込んでいたからこそ出来る凍り付いた表情を浮かべて。リアムからして見れば、予想だにしない出来事だ。突然の裏切りだと感じているのかもしれない。
しかし、そう感じているのはリアムだけだ。俺は、この世界に来るずっと前から裏切っていた。突然などではない。
「そんな……そんなの嘘だよ。だって、俺は君が好きだから。君だって、俺のこと好きなはず。だって、ずっと友達なんだから」
少し考えて、どうやったらそういった結論に至るのか。やはり、この男は頭がおかしい。大嫌いだと真っ直ぐに伝えてやったのに。昔から思っていたけれど、どういう思考回路をしているのだろう。覗き込んだら、こっちまで頭がおかしくなってしまいそうだ。
「嘘をついてたのは、そっちなんだよ。友達になったっていう嘘。俺はさ、俺を引き立ててくれるくらいの存在が欲しかっただけ。お前には、その素質があると思った。どうせ、ぼっちみたいだったし。つけ込めば、俺の思うような奴に仕立て上げやすいと思ったんだ。だが……俺は、どうやら絶望的に人を見る目がないらしくてな。俺が、お前の引き立て役になっちまった」
「じゃあ……もしかして、君が学校を何も言わずに辞めて姿を消したのは……俺のせい?」
「おぉ、珍しくこっちの言いたいことが分かったじゃねぇか。こんな理由を聞いて、お前はまだ俺のことを友達だって言えるのか? 言えねぇよなぁ、こんなクソみたいな理由で――」
自覚している。一方的な理由で近付いて、一方的な理由で嫌いになった。リアム以上にわがままなのは、俺。
「友達だよ! でも、君は友達だって思ってくれないんだよね……じゃあ! 君の望むリアムになるよ! 引き立て役になるさ! どうすればいい? どうしたらいい? 何をすれば、友達だって認めて貰える? 何だってやるよ。もう、俺には君しかいないんだ。全部、君に合わせるからね。そうすれば、俺のことを好きになってくれるよね……」
即答だった。あれだけの事実を述べ、加えてそれが事実であると認識したというのに、返ってきたのは予想だにしないものだった。正気の沙汰ではない。
しかも、俺に友達だと思って貰う為なら、その希望に沿うだのなんだのと言う。昔の俺だったら、嬉しく受け入れていたかもしれない。けれども、もう無理だ。俺には、俺の作った溝を埋める気力はもうない。リアムの架けようとする橋は、もうここまで届かない。
「あぁ? 何言ってんだ、お前。どこまで頭イってんだ」
「ねぇ、ねぇ? どうしたらいいの? 教えて? あの時みたいに教えてよ。君の言うことは、とても分かりやすいんだ。お願い、お願いだから……」
懇願し、その目に涙を滲ませる。どん引きだった。どうして、俺にそこまで執着するのか分からない。そこまでしたって、大嫌いは変わらないし、それが改善することはもう二度とない。そのしつこさに、俺は恐怖を覚えた。本物のヤバい奴に、目をつけられてしまったのだと。




