大嫌い
話は少し前に遡る――。
―ゴンザレス 教会 ?―
気が付いたら、俺は教会に佇んでいた。空間の変化と隔離、やはり、そう簡単には物事は動いてくれない。一番大事なことに限って、思うようになってはくれない。
「ひさしぶり!」
俺の道は、邪魔ばかり入る。その邪魔の代表格が今、目の前にいるリアムだった。
「ぁああ……会いたかった! 逢いたかった! 俺……すっごく、君に逢いたかった。あぁ! 本物だ! この異世界で君に逢えるなんて、嘘みたい! 嬉しいな嬉しいなぁ」
女に追われるならまだしも、男に追われるなんて最悪だ。何もロマンチックじゃないし、運命的じゃない。
「この世界に来て、俺はすっごく幸せになったんだ。失ったものが、また手に入ったんだ。でも、俺はもっと幸せになりたい。少しだけ見せて貰ったんだ、あったかもしれない世界のこと。ここで、君に勝てば永遠に見せてくれるんだって。だからね……俺は、君に勝つよ!」
目を輝かせ、一切の悪気もなく、俺を不快にしていく。こいつは、そういう奴だ。自分の幸せで、他者も幸せになるのだと信じている。自己と他人の境界がない。
「俺も強くなったんだよ。この世界に来て、魔法とか魔術とかいっぱい学んだ。最初は何も出来なかったけど、こっちの世界の君のお陰でコツが掴めて出来るようになったんだ。昔を思い出したよ。君が、勉強のやり方を教えてくれた時のこととか……こっちの世界の君も、優しくて強かった。今の俺には、どっちの君も憧れさ!」
一言一言が、正確に俺の傷を抉る。俺が、人生の敗北者となるきっかけになった出来事を沸々と思い出す。
(馬鹿にしてんのか?)
俺が、一人で冴えない様子だったリアムに声をかけてしまったことが最悪の始まり。顔もそれなりにイケてて、俺の引き立て役にするのにはちょうどいいと思った。リアムを俺が支えてやれば、さらに皆の注目の的になれると思った。
それで勉強を教えてやったら、今までが演技だったのではないかと思うくらいの勢いで成績を上げた。俺は、皆に見えない所で必死に努力に努力を重ねていたのに、こいつはそれをあっさりと獲得していく。それに加えて、努力もする。元々才能のある奴が努力なんてしたら、才能のない努力だけの人間が負けてしまうのは必然だった。
『リアムってさぁ、マジでかっこいいと思わない?』
『分かる~、最初の頃とは別人だよね。巽のお陰だって言ってたよ』
『へー、そういえばよくつるんでるもんね。でもさぁ、ぶっちゃけリアムの方がいいよね。彼と仲良くなりたいから、巽と――』
リアムを引き立て役にするつもりで近付いた俺は、いつの間にかリアムの引き立て役へと成り下がっていた。だから、逃げたのに。わがままに付き合わせるつもりだった人間に、巻き込まれていくようになったから。理想としてた立場が、リアムの元に行ってしまったのが耐えられなかった。まるで、見せつけられているようで。
「お前さぁ……いい加減にしろよ。さっきからよぉ、一方的にごちゃごちゃうっせんだよ。俺、何も言ってねぇだろ。俺はよ、ちっともお前に会いたくなかったんだよ。こんなクソみたいな手紙をよこしやがってよ」
そして、俺は千切った手紙の端切れを床に叩きつける。ここに来たのは、こいつの夢やら願いを叶える為ではない。俺自身の為だ。
「巽……?」
リアムの動揺した表情を見ると、気分が高ぶった。俺は屑なのだと、改めて自覚する。けれども、人間はそう簡単には変えられない。生まれ持った部分はより難しい。
「この際だから、はっきり言ってやるよKY野郎。俺はなぁ、お前のことなんて友達なんて思ったことねぇんだよ。俺は吐き気がするくらい、大嫌いなんだよ」




