子供のように
―ロキ 教会 ?―
静まり返った真っ赤な世界の中で、私はヴォーダンに問いかける。
「いいのですか? こんな所に留まって。私の力の流れをとめるなんてことをしていたら、貴方も力を失ってしまいますよ。勿論、私も殺せません。それに、彼らが役立たずかもしれませんよ。所詮、彼らはこの世界の人間。期待など、平気で裏切る。合理的でもなければ、効率的でもないかと思いますよ」
あらゆる切り札を使い切った私には、もはやどうこうする手段は残っていない。本当なら歪みに落ちていくはずだったのだけれど、ヴォーダンの意外な策によってこの場に留まり続けている。退屈で仕方がないので、宿敵に話しかけていた。
「……その考え方では、いずれ足元をすくわれる。小さき者も、可能性はあるのだからな」
普段であれば、頑なに口を閉ざす彼も珍しく言葉を返してきた。
(同じ気持ちなのでしょうか。珍しく気が合った)
「私には、分かりません。何故、貴方がこの世界にそれほどまでに肩入れするのか」
「この世界は、あらゆる世界の原点。それが失われることは、あってはならぬ。創造主の考えることは、理解に及ばぬ。慈しみ愛するというのは言葉ばかりで、行動が伴っていない。他の神々もそうだ。まるで、この世界を玩具のように扱っておる。本来は、尊ばねばならぬのに。地獄などという役割は、間違っている。あやつが改めぬ限り、わしの覚悟は変わらぬ」
「失敗作だからですよ。この世界には、種族が多過ぎる。どれだけの者達が無意味な争いで死んだのでしょう。本来ならば、壊されるはずだった。しかし、創造主様の思いやりによって役割をもって存在することを許されているのです」
「それは、わしらと変わらぬではないか。神々も争い、命を奪う。結局の所、自分の思うようにならなかったから隠す為に、それっぽい理由をつけただけのこと」
話せば話すほど、思う。やはり、私達は相容れない。根本的な部分で考え方と捉え方が違うのだから。
「では……貴方は考えたことはありますか? 貴方が自由に行動出来る理由。創造主様は、いつだって私達の行動を見ている。当然、全て把握していらっしゃる」
「手のひらの中と言いたいのだろう。しかし、手のひらは完全なる密閉空間ではない。あぐらをかいている隙を突く」
「出来たらいいですねぇ、そんなこと。けれど、貴方も所詮は創造主様に創られた存在なんですから。いい加減、身の程を弁えるべきですよ。いつまでも、駄々をこねる子供でいないで下さいねぇ……」
彼は、知るべきだ。創造主様と、私達は同じ檀上にはいないということを。どれだけ足掻いても、登れないのだと。
「言いたければ言うがいい。わしは、不可能を可能にしてみせる。わしは、一人ではないのでな……」
強い決意と自信に満ち溢れた声であった。普段ならば、聞く気もない。けれど、折角の機会――もっと考え方を聞いてみるのもありだろう。私が聞けば、必然的に創造主様も聞くことになるのだから。




