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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第三十四章 因果断絶
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終わらせる者

―ロキ 教会 ?―

 使徒を監視し、命令を下すのにも適した場所。それがあるとするならば、城かもしれないと思ってはいた。行方が掴めなくなってから、私は何度も城を探した。けれども、その気配はどこにもなく――閏とかいう子供も見た時も、何も感じなかった。


「まぁ、間借りしていた程度のことだ。わしが居座ったせいで、少々自我や意識に影響もあってな。子供にしては、不審になってしまったようだ。それを一つの個性として受け入れた家族には、感謝してもしきれぬな。疑いを向けられたりしては、そこから貴様に勘付かれてしまう可能性もあった訳だから」

「それは……ハハ、予想外でしたよ。まさか、最も無力な子供の中にいるなど」


 槍の動きが素早くなった気がしてきた。しかし、恐らくそれは私の限界が近付いてきたことによる感覚の鈍りなのだと察する。それを悟られぬよう、何とか笑みで応じつつ、槍の動きについていく。


「成長した者の中に途中から入ると、違和感を感じさせてしまうようでな。しかし、赤子の頃からおれば、それが当たり前になるだろう? だから、城内で探していたらちょうどいい具合で生まれてな。そこから、ずっと居座り続けておったわ。休養にも命令を下すのにも、非常に快適だった」


 本当は話など聞ける余裕ない。しかし、返さねば気付かれてしまう。笑みを作って、思考を巡らせ、適切な問いをする。基本的なことは、この危機的状況では異様に難しく感じられた。


「では、綴の立てた計画の中でその器が傷付いた際は、どうしていたのでしょうか?」


 綴が立てた計画の中で、巽様の姉弟を利用するというものがあった。結果として、皐月は重症を負い、閏は意識不明となった。それから一年程経過し、最近目覚めたという噂は聞いていた。実に喜ばしいことだけれど、それでは困る。巽様が安堵して、満たされてしまうから。


「支えがなければ、立ち上がれぬ。自立した自我ではなかったのでね。共に眠っていた。その瞬間だけ見ていれば、最悪の状況だった。しかし……長い目で見れば、最良であった。完全なる眠りは、更なる覚醒を促したのだ。結果として、わしがここにこのように立っている。自立した自我は、確かにお前の目の前に存在して、このように槍を向けているのだ」


(綴……貴方の撒いた種が花となって、私の目の前で毒を持って咲き誇っていますよ。貴方はどこまでも惨めな子です。きっと、先導者である私が悪かったのでしょう。導き方が良ければ、貴方は今頃兄を葬り、巽様を完全に手中へと収めていたでしょう。綴となら、やっていけたかもし――)


「はぅっぁ!?」

「そして――その槍に、ついに貴様はもう片方の目を突かれた」


 話しかけられ続けた結果、槍に向けていた集中が少しだけ途切れてしまった。弟子の体たらくな有り様に巻き込まれて、その不甲斐なさに柄にもなく愛おしさを覚えてしまったその隙を突かれ、かろうじて機能していた片目は動かなくなった。


「隙だらけだ。がっかりだな。もっと暇つぶしに付き合って貰えるものだと思っていた。もっと話に付き合って貰えるものだと」


(軍神には……正面からやっても勝てる訳ないんですよ。捨て身の覚悟、私にはそれが出来ています)


 目の機能が失われるということは、この教会も失われる。全てまとめて、時空の歪みへと引きずり込む。


「む……!? 何事だ、これは!」


 余裕のウォーデンの顔が曇っていくのが、目に浮かぶ。それが見れないのが、悲しくてならない。


「ハハハハ、私の勝敗などどうでもいいんですよ! 貴方を、ここに閉じ込めてしまえば……創造主様に歯向かう者の勢力は著しく弱くなる!」


(貴方の期待に沿えないこと、お傍にいれないことが残念でなりません。ですが、力を使い果たした私にはもうこれ以外に成せそうにもありません)


 空間の崩壊が始まる。彼には、私のようには出来ないだろう。復讐に囚われている彼には。混乱の最中に、そのまま時空の歪みに飲み込まれて消えてしまえばいい。


「小癪な真似を!」


(私が舞台上から消えることになったとしても、もう既に餌は撒かれています。もうすぐ彼女も辿り着く、そこから先はアルモニアとかいう少女の出番……私の組織の者としての役割はとっくに終わった)


「それが、私ですからぁ! アハハハハハハハ!」


 真っ赤な世界の中で、私は高らかに笑う。

 ――全て終わらせてしまおう。創造主様にとって、面倒なこと全て。

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