槍と嘘
―ロキ 教会 ?―
これは、失態だ。この私が、欺かれるなど。
「あの時は、両成敗という形で終わってしまったからな。創造主も狂ったものだな。加害者と被害者遺族を同等と判断し、この世界へと堕とすとは」
「何度も言っているでしょう。私は直接、貴方の息子に手をかけてはいません。勘違いの復讐で、私に手を出してきたのは貴方ですよ。怒りを向ける相手を、間違っているのではありませんか? そもそも、事の発端は貴方が創造主様を裏切ろうとしたことにあるのですから……貴方の息子の一人が死んだのは、貴方のせいでしょう。創造主様を敬愛し、忠誠を誓う者達の怒りに触れても致し方ありません。たとえ、実の家族であったとしても……貴方の思想に近しい者を許せないことだってあるでしょうし」
そう、あれはもう気が遠くなるほどの昔の話。この世界に堕ちるきっかけとなった出来事。私は神々の間に不和を齎したことと、ヴォーダンは創造主様への謀反を企てたことが主な原因で地獄へと堕とされた。
『多くの者を納得させなければならないから、仕方がない。これが不服ならば、自力で出てご覧。容易いことではない分、お前を見直す者もいるさ。私は、期待している』
「そそのかしたのは……貴様だろう、ロキ。息子に息子を殺させた罪は、その死をもって償って貰わねば納得など出来ぬ。貴様のような卑怯者とは、わしは違う。直接手を下す、今度こそ……必ずや貴様に!」
禍々しい雰囲気が、より一層強くなる。すると、槍がその手に握られる。しばらく姿を見せぬ内に、ここまで力を取り戻しているとは。
(まぁ、自分からこちらに赴いてきたということは……自信もありますよね。もっと早く気付いていれば……悔やんでももう仕方がありませんが)
「素晴らしい槍ですよね。狙った的は、必ず突く。ただ、その的を勘違いすれば永遠に突けません」
「お陰で、あの時は苦労したものだ。しかし、今の貴様は片目だけ。力を使えば使うほど、その身を蝕むであろう。それに、大した技も使えまい。こちらはもう、すっかり力は取り戻しておるからなぁ!?」
彼は狂気じみた笑顔で、その憎悪に染まった槍を投げる。
随分と舐められたものだ。私とて、創造主様に見初められて神となった立場の者なのに。その慢心と驕りが、以前の結果を齎したのだと学んでいない。ならば、私はその隙を突く。嘘は、心ある限りそこにあり続けるのだから。
「それは、それは……恐ろしいことです。しかし、不思議ですね……貴方の投げた槍は、私の心臓を射抜いてはいませんね」
槍は、私の横をすり抜けて壁へと突き刺さった。
「チッ、捨て身の覚悟か?」
彼はその場を動くことなく、私を睨みつける。その一瞬に、彼の手には再び槍が握られていた。




