見誤る
―ロキ 教会 ?―
碧から紅へ。空間が壊れただけではなくて、色が変わった。
「あぁ゛ぁ……!」
左目に走る激痛、そこから血が滴り落ちてくる。空間の崩壊の原因はこれだった。私の力は、目に起因する。片目を失うことは、威力と精度は落ちてしまうことを意味していた。
この一瞬の間に、一体何が起こったというのか。右目を使って、状況を見極める。
(何……!?)
そこには、信じられない光景があった。
「ど……う、して、私の嘘を……見破ったのですか」
下に閉じ込めていたはずの宝生親子がそこにいた。巽様は、少女を守るように抱いて宙を飛ぶ。颯様は、こちらが気圧されてしまうほどの剣幕で視線を向けていた。その手は、紅く染まっていた。私の血で。
(あぁ、敗れてしまったのですね。綴。保険を用意しておいて良かった。やはり、貴方に憧れと憧れの息子を支配することなど出来るはずもなかったのです。それでも、期待してしまったのは……情だったのでしょうか。傷だらけで歪んでいる貴方に、この私が)
「――見誤ったな。ロキよ」
「……貴方が?」
様子がおかしい、そう直感的に悟った。いくら優れていたとしても、どれだけ実力があったとしても、私の嘘を見破るだけでなく、空間を破壊し、片目を奪うことなんて出来るはずがない。小さな世界しか知らない囚人には。
しかし、その前提が違うのだとしたら? 目の前にいるのは、私と同じようにこの世界の正体を知る者だったのだとしたら? そう考えると、自然と見えてきた。この威圧感は、彼が出しているものではない。ひっそりと息を潜める何者かによるものであると。
「いいや……違いますね。この世界の人間程度に、ここまでされるほど落ちぶれてはいません。逆に言えば、この世界の外にいる同等の者ならば……」
「ここまで来て、隠すつもりなど微塵もない。この男は、わしによく似ておる。故に、気配を隠すのに役立った。ロキよ、気付くのが遅かったな。堂々と来てやったのに。こちらから手の内を見せてやらねば、分からないとは。ハハハハハ……!」
高笑いをすると、彼は倒れた。すると、その背後から禍々しい光が現れて人の形を作り出す。それは、やがて脳裏に焼き付いて離れない相手の姿となった。長い髭を蓄えた、隻眼の老人に。
「父上っ!」
少女を抱きかかえたまま、巽様はすぐに父親の元へと駆け寄る。そして、すぐに飛び上がった。体には、無数の傷が刻まれ、腕には布が巻かれていた。
(随分と傷だらけですね。これは、綴の成果なのでしょうか……もう少し揺すれば、暴走させることが出来るというのに。この男さえ、いなければ……!)
「よそ見をしている余裕が? それはそれは素晴らしい。この時を待ち続けた。お前に遅れを取り、眠っていた時間の分と息子の分……ここで、倍にして返させて貰うぞ」




