武器となる
―ロキ 教会 ?―
試しにと垂らしてみた餌の効果は抜群だった。
(やはり、この話題ですよね)
「え……」
少女の意思が、揺れ動くほどに。彼女の顔には、驚きと焦りの入り混じった表情が浮かんでいる。
「どうして知っているのかって表情をされていますね? 私は、この世界のことは大抵把握しています。それに、貴方の場合は特殊な境遇が隠し切れていませんから。神より力を分けられた者の気配が」
私には、見えている。彼女の背に眠る鳳凰の翼が。いずれ、その課せられた使命は、私の願いの妨害をする。この機会であるから、少女をここで閉じ込めて終わらせてしまいたい。この少女を連れてきたゴンザレスを名乗る彼の魂胆は、私には理解しかねる。
「私は、そんな貴方が可哀相でなりません。先祖が決めたことに、生まれる前から巻き込まれるなんて。普通に生まれていれば、このようなことにも巻き込まれるはずがないのです。普通の人間か、鳥族として生きていくことだって出来たはずなのに。使用人として、子供としての在り方を奪われることだってなかったかもしれないのに」
私は、知っている。この少女の背負う宿命と役割を。先祖代々受け継がれてきた役割は、人間と鳥族の長である鳳凰の血が混ざり合うことで継承されていく。愛や想いなどは、そこにはない。ただの儀式、いや呪いかもしれない。
「……私は、別にこの運命を呪ったことはありません。ゴンザレス様やおばあ様、お母様から聞いています。私は幸せです。もしも、この運命がなかったら……巽様のおそばにもいられないでしょう。永い時の巡り合わせがなければ、私という存在はこの世界にはありませんから」
そう言いながら、少女は服を強く握りしめる。その姿に、私は感動を覚えた。嘘偽りのない真っ直ぐな言葉。私の全て否定された気分になってしまったけれど、それでもこんな子供が使命を理解して全うする為に励んでいる。その姿に、思わず涙が出てしまいそうになった。
「あぁ! なんと使命感に溢れる子供なのでしょう。きっと、大切に愛されて育ってきたのでしょう。歪みがあれば、きっと貴方は私の側にいたはずでしょうしね」
しかし、それでも私は彼女の妨害をしなければならない。彼女は、この世界の存続を願う者の使徒。私は、この世界の終焉を願う者。その目的と利害は、決して交わらない。だから、ここで全てに決着をつけなければならないのだ。
この世界を、牢獄を破壊する為に。創造主様も楽しんでおられるのだから。きっと、これを成功させれば更なる地位を頂けることだろう。私は、創造主様に歯向かう者を排除する為の武器となる。その為には、証明が必要だ。成果を出せば、認めて頂けるはずだ。
「ですが、それは……貴方がそれしか知らないからではありませんか? そのように言い聞かされて生きてきたのでしょう。それが、貴方の価値観となってしまった。一度、捨てて考えてみるべきですよ。私も……協力して差し上げますから!」
私を真っ直ぐと睨みつける瞳。その純粋な瞳ごと、私は彼女を誘った。碧き私の世界へと――。




