釣り人
―ロキ 教会 ?―
「巽様~! ゴンザレス様~!」
どれだけ二人の名前を呼んでも、反応はない。当然だ。何故なら、ここにはいないから。それぞれが、それぞれのフィールドで戦う場を用意してあげた。これは、私なりの配慮だ。
「うぅ……」
少女は震えながら、部屋中にある窓やドアを何度も探る。しかし、どれも開くはずもない。何故なら、それらは全て「嘘」なのだから。
(さて、幼気な少女の滑稽な姿はこれ以上見たくはないですね。私は、優しい。彼女には、真実を見せてあげましょう)
「無駄ですよ。貴方はここから出られません」
少女の背後に移動し、耳元でそっと語りかける。
「ひっ!?」
予期出来なかったようで、彼女はびくりと肩を揺らした。
「それに、巽様もゴンザレス様も今は大人の話をしていて忙しいのです。どうせ、一人ぼっちになってしまうくらいなら、私とおしゃべりでもして時間を潰しましょう。自慢ではありませんが、退屈はさせませんよ。経験は豊富なので。いくらでも……永遠でも、お話しますよ」
優しく語りかけて、頭を撫でようとした時、虚しくもその手は払いのけられた。
「触らないで下さいっ! わ、私は、一刻でも早く巽様の……ゴンザレス様の元にも行かねばならないのです。貴方とおしゃべりなんてしている暇はないんです! 貴方がこんな変な空間を生み出したというのなら、私は……」
明確に向けられた敵意、鋭く突き刺さる視線。手紙を奪ったことと相まって、余計に嫌われてしまったらしい。
しかし、それは虚勢であることは痛いほど分かった。何故ならば、彼女の手と声は震えていたのだから。
(やれやれ……)
「他者が水を差すのはよくありませんよ。たとえ、貴方に信頼を寄せていたとしても、家族は家族、友人は友人だけで話したいこともあるでしょうから。ですから、言っているのですよ。私と永遠に、ここでおしゃべりをしていましょうと」
そう、彼らにはそれぞれ込み入った話がある。子供の頃から続く因縁、転移する以前の因縁、それらに巻き込まれた因縁の。
そんな話に、私達がいても仕方がない。縁というものは、他者にどうこう出来るものでないのだから。
「お断りします! 貴方がその気なら、私だって……自分でどうにかしますから!」
(頑固ですねぇ。普通、このくらいの年齢の子供なら、すぐに大人しくなるというのに。あぁ……よくよく考えれば、彼女は普通ではありませんでしたね。そんな世界で、彼女は生きていないのですから)
これは、まるで釣りだ。どうすれば、魚が引っかかるのだろうと考える釣り人の気分になった。この魚には、特別な餌が必要だ。こちらに振り向かせてそのまま引き上げる為のものが。
「あぁ、もしかして話す話題がつまらないかもしれないからと拒絶されているのでしょうか? ならば、そうですね……まずは、一つの話題に絞って話しましょう。例えば、そう。人間と鳥族との間に生まれた貴方にフォーカスを当てるというのはいかがでしょう?」




