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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第三十四章 因果断絶
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挑発でなくて本心

―教会 ?― 

 父上から告げられた衝撃の言葉。そんなはずはない。あいつの息の根をとめた瞬間を、僕は確かに見届けた。父上の手で、屠られたはず。徐々に弱って、死ぬ様を確かに見届けた。

 そこで感じた違和感といえば、出血していなかったということくらい。


「しかし、確かに……」

「ここにあった、あの老人の中にいた綴の魂は確かに消滅した。しかし、あいつの生命力は尋常ではない。常識を範疇を超えている。本来、この程度であるはずがない。私が仕留めることが出来たのは、あいつの生命力が落ちていたからだ」

「えっと、あ……もしかして、あの一本の糸うんぬんかんぬんという話でしょうか?」


 前回、父上が話してくれた話。十六夜の命は一本の糸のようなもので、同じ糸なら繋ぎ合わせたり切ったりも出来ると。


(人の命なら、奪うことも与えることも出来るってことでいいんだよね? 多分……)


「あぁ、そうだ。よく覚えていたな。通常であれば、あいつは私の生命力だって奪うことだって出来たはず。しかし、それが出来ないくらいに弱っていた。糸というのも、短過ぎると繋ぎ合わせるのが大変だからな。その理論だ」

「どうしてでしょうか? 老体であったからですか?」


 僕の問いに対して、父上は即座に首を振る。


「それも一因としてはある。だが、それが一番の原因ではないだろう」

「では、一体……」

「お前も見ただろう? あいつの体から血が出ていなかった所を。あの体には、血すら通っていなかった。加えて、生物に重要な心臓もなかった。そんな体を維持していくのには、相当な生命力を必要とするだろう。それが出来るくらいの余力はあったのだろうが、今回、私が与えた攻撃によって尽きてしまったのだろうと思う。老体であると、その負担は大きくなる。あいつが、そのことを把握していなかったとは思えないのだが……慢心だろうか。こちらとしては、弱らせることが目的だったのだが……それが、死因となるとは思わなかった」


 確かにあの時、十六夜は父上にいとも容易く仕留められた。それは、単純に父上の実力が勝っていたからだと僕の中で勝手に片付けていた。


(まだ、この話をするのかな……十六夜のことなんて、もういいじゃないか)


「そのことに関しては、知識不足なので何とも言えませんが……気にはなりますね。長い期間をかけて、父上を陥れようとしてきていたというのに」

「あの時、私は覚悟を決めていた。お前に殺される時は、穏やかに死のうと。そうすれば、あいつの目標は未達成のまま全てが終わる。しかし、お前は私を殺さなかった。つまり、あいつにとって、まだ目標を叶える光はあった。そんな所で、あのこだわり抜いたあいつは死ぬのだろうか。老体であったことを差し引いても、やはり疑問が残る」


 願いが叶うかもしれない直前で、十六夜が自身に呆気なくやられてしまったことに納得がいかない様子の父上は、真剣な表情で問いかける。


(もしかして、あの時弱い弱いと連呼してたのって……挑発ではなくて本心だったのか?)


 しかし、そんなこと僕には分かるはずもない。父上の方が強いのは確かであるし、本当に太刀打ち出来なかっただけなのかもしれない。十六夜の正確な実力を僕は知らないし、知ろうとも思わない。

 それに、十六夜の話はもうしたくない。忘れたい。僕にとっては、全ての元凶で諸悪の根源だから。いないのなら、なかったことにしたいくらいだから。


「そのことに関しては……もう調べる余地はないかと」

「それも、そうか……すまない、無駄話をしてしまったな。急ぐ要件があるのだったな。出口の気配は、そこにある」


 僕のその言葉で我に返ったのか、父上は冷静に天井を指差した。

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