僕を見て
―教会 ?―
万物を飲み込んでしまいそうな感覚に、思わず身を委ねてしまいたくなる。けれども、歯を食いしばり何とか踏みとどまる。
底知れぬ力には、底知れぬ力で返すしかない。少々の犠牲は仕方がない。たとえ、それが自分であっても。
「父上ッッッ!」
父上の動きがゆっくり見えやすくなる。疲労から、動きが鈍り始めた訳ではない。僕の動体視力が上がり始めただけ。ただお陰で、攻撃の軌道が捉えやすくなってきた。
「僕を……がっかりさせないでくれっ……!」
抑え込んでいた感情が、溢れてとまらない。僕の憧れた人は、こんなにも無様な姿を晒したりはしない。いつだって、威厳に溢れている。いつだって、皆の期待に沿っている。そもそも、他人に操られてしまうなんて受け入れがたい現実だった。
「父上は強い! 誰よりもずっと! 父上は、父上の強い意志がある。それを、そう簡単に奪われるなんて認めないっ! 目を覚ませ、目を逸らすなぁああっ!」
攻撃を受けとめ、瞬時に蹴りを入れる。僕の蹴りを食らって、父上はふらつく。その隙をついて、火の玉を作り出して全て投げ入れる。さらに、父上の周りに風を巻き起こして軌道を滅茶苦茶にした。四方八方に、火の玉が飛び交っていく。
父上は、その様子を観察しながら動ける機会を見図っていた。
「なんで、分からない。どうして、分からないっ! 何故、見てくれないっ!? 僕は……貴方の息子なのにっ! 昔から、昔から……そうだ。貴方は、これっぽっちも僕を僕として見てくれなかった! 僕を見ていると、十六夜を思い出して辛い? ふざけるな。そんなこと、僕が知る訳ないだろ! 態度だけで分かるものか! 嫌われていると思ってた。僕が、出来ない子だからって。跡目に相応しくないくらい、弱いからだって。でも、どれだけ努力しても、父上の態度は変わらないっ! そんなに苦しかったのなら、僕をさっさと葬り去れば良かったんだ! 昔なら、間に合ったかもしれないのに。それでも、そうしなかったってことは……覚悟があったってことだろう!? それを都合良く、全てを忘れるなんてたちが悪い! そんなの、絶対に認めない。絶対に許さないっ!」
全てを吐き出しながら、風と火の玉の中を潜り抜ける。そして、剣を抜き取って無防備な背中に振りかざす。
「ダからァ……僕ヲ見ろって言ってるダロォォォッ!?」
傷が疼く。激情すると同時に、体が異質なものへと変化していっているのが分かる。しかし、これは想定内だった。中途半端な形で封印されたものを引き出している、何もない訳がないし、前回もそうだったから。
(限界ダ……)
「父上……僕ハここにイル……ココニ……」
そして、剣の刃を肩に叩き落した。刃は立てず、横に――喝を入れるイメージで。




