引離
―教会 夕方―
僕が教会内へと完全に入った瞬間、勝手に扉が閉じた。
「っ!?」
焦燥感に駆られ、扉を引いたり押したりしてみたのだがびくともしない。魔術が使われた気配、それがひしひしと伝わってくる。
(閉じ込められた!? こんなことをして何の意味が? どうして、僕らを閉じ込める必要が……)
「――お早い到着ですね、皆様」
聞き覚えのある声が、反響する。視線を向けると、祭壇の前に飾られた像の台上にロキさんが立っていた。聖女の姿ではなく、男性の姿で。
「さっきの今、送った手紙だったのですが……飛んできたのです? そこの鳥族の娘に乗って?」
不敵な笑みを浮かべて、小鳥を見つめる。彼女が怖がっているのが、背中越しにでも伝わった。だから、彼女からロキさんが見えぬように立ち塞がった。
「んな訳ねーだろ。そういうのは、小鳥の専門じゃねぇんでな。俺が連れて来たんだよ」
「そうですか……流石は、異世界の使徒ですね。貴方に、授けられた能力はそれでしたか」
「貴方に……まるで、他にもいるみたいな言い方じゃねぇか? あぁ?」
「えぇ、いますよ。察しはついていたのでは? 手紙にも、使徒である彼からのメッセージがあったはずなのですが。こちらの不手際でしょうか? 少し確認させて頂きますね」
ロキさんは不思議そうに小首を傾げると、指を鳴らした。すると、彼の手には小鳥が持っていたはずの破られた手紙があった。
「え? え……!?」
それを見て、一番驚いていたのが小鳥だ。自身が管理していた物が、一瞬の内に彼の手に渡ってしまったことが受けとめきれなかったのだろうと思う。何度も何度も懐の中を確認していた。
「隠しきれていないですよ。甘いですね、子供ですから仕方ありませんが。大切なものは、楽な方法では守り切れませんよ?」
「うぅ……ごめんなさいっ、巽様。ゴンザレス様……」
「君は何も悪くない。悪いのは、勝手に盗ってきたロキさんだ」
涙を流し始めた彼女の頭を撫でることくらいしか、僕には出来なかった。そんな彼女の涙など、気にもとめぬ様子で彼は言う。
「あれ? どうして破られているのでしょう? 私が送り届けた時には、まだ綺麗な姿だったはずですが」
「あぁ、そういえばごみだと思って、うっかり破っちまったわ。大したことじゃねぇから、忘れてたわ。冷静になって、下半分見たら脅迫文載ってたからよ。つーか、こんな話をする為に俺を呼んだのか? クソ親父はいねぇのか? はったりかましてんのか?」
「そうですよね。失礼致しました。皆様、お二方に会えることを待ち望んでおられましたから。それぞれ、歓迎の仕方は異なるようですがね。さて、お客様も待ちきれないようですし、それぞれご案内致しましょう――」
それを合図としたかのように、教会全体が音を立てながら激しく揺れ始める。同時に、魔力が封じ込められるのも。
「きゃぁっ!?」
小鳥の悲鳴が聞こえた。しかし、姿は揺れによって生じる砂ぼこりのせいで全く見えなかった。
「大丈夫か、小鳥っ! 小鳥!?」
目にゴミが入らないように、腕で防ぎながら小鳥に呼びかける。しかし、返事はなく……それどころか、気配がどんどん遠退いていくのを感じた。魔力が無効化されている今、僕は無力だった。




