表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第三十三章 描いた絵
528/768

不審な手紙

―自室 夕方―

 リアムが忽然と姿を消して、一週間が経った。学校に行っても、彼が現れることはない。しつこく絡んでくることもない。状況が状況でなければ、素直に喜べたのだが。


(う~ん……参ったなぁ。もう。探しに行った方がいいのかな? でも、嫌だなぁ。場所も、あそこにいる人も全部が嫌だ)


 嫌な気しか漂っていないあの場所に、また足を運ばねばならないのだと思うと体が重かった。しかも、僕一人。遠くから見ている人はいるけれど、こういう時は都合良く使命を全うしてくれるから。


(失っていた記憶だけじゃない。僕じゃない人の記憶まで蘇ってしまった。かろうじて、意識を保つことはけれど、またあんな目に遭ったら自信がないよ)


 蘇った記憶は、まだ整理し切れていない。そんな中で、下手に行動するのも危険だと思った。あの状態になると、行動不能に陥ってしまうから。


「はぁ……」

「――ため息ついてっと、不幸になるぜ? 悩みがあるなら、相談に乗ってやらんこともねぇ。ただし、有料だがな」

「んえ!?」


 背後から聞き覚えのある、不快な声が聞こえた。でも、その人物はいるはずがない。いや、いてはいけない。

 ところが、振り向くとそこに奴はいた。国で、僕に成り代わっているゴンザレスが。窓枠に腰かけて、平然と。そして、その隣には気まずそうに俯く小鳥もいた。


「間抜けな声だな。おひさ~、小鳥もおるぞ」


 混乱する僕を見て楽しむかのように、ゴンザレスは笑う。


「そんなことは見れば分かる! どうして、ここにいるんだ! 王としての務めを果たしているはずのお前が!」

「瞬間移動で来た。小鳥も俺が連れてきた」

「そういうことを言ってるんじゃないっ! 忙しいんじゃなかったのか!? 忙しいから、父上が――」

「俺が、わざわざ来る羽目になったのはそれだよ。それ」


 ゴンザレスの顔から、薄ら笑いが消える。


「……は?」


 すると、隣で俯いていた小鳥が意を決したように口を開く。


「颯様が戻られないのです。颯様が使った移動手段であれば、数日前には、我が国に戻っておられるはずだったのですが……音沙汰なく。加えて、ゴンザレス様の元に奇妙な手紙が届きました。巽様もご覧下さい」


(え? なんで? え? え? 父上が? だって、父上が物騒なことに巻き込まれるはずがない。あの時に見送った背中だって逞しかった。冗談だろ? 何かの間違いだろ?)


 彼女は不自然に千切られた手紙を取り出して、僕の前に差し出す。それを受け取り、中を見てみるとそこには衝撃の内容が記してあった。


『アスガード村の教会にて待つ。私は、必ずそこにいる。私は何でも知っているぞ』


 達筆な日本語だ。それなりに、書き慣れていなければ出来ない崩し方もしてある。加えて、意味深な言葉を添えている。捉え方によっては、脅迫に感じられた。


「メールとか電話だったら、間違いかなぁって思えるんだけど。残念ながら、手紙で送り主とこっちの住所もきっちり書いてあったもんでな。しかも、丁寧に俺の名前を書いてあった。気味が悪いし、モヤモヤする。しかも、最後の言葉が余計にむかつく。クソ親父が消えたタイミングも怪しいし、俺自身が動かなきゃダメだって思った。一日でさくっとやれば問題ねぇよな」

「……なぁ、この手紙は最初からこの状態だったのか?」

「え? そうだけど?」


 ゴンザレスは、表情一つ崩さずに言った。僕とは違って、平然と嘘をつける男だ。聞くだけ無意味だったかもしれない。


「こんなに丁寧に書く相手が、こんな不自然に……?」

「チッ。そういうこともあんだろ。てか、お前うるせぇ。説明してる暇ねぇんだ。こっちは、死ぬほど忙しいんだ。なんせ、今この瞬間から動かなきゃいけねぇんだ! てめぇも来い! 少しは、俺の役に立てよな――」


 彼は、面倒臭そうに舌打ちをする。その刹那、空間がぐにゃりと歪んで体が浮く感覚を覚えた。あの村に行くつもりなのだ。僕に確認することもなく、本当に自分勝手だ。だから、嫌いだ。

 それでも、付き合うのは――心のどこかでゴンザレスと一緒なら頼もしい、どうにか出来ると思ってしまっているからだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ