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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第三十三章 描いた絵
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英雄であり反逆者

―リアム アスガード村 夕方―

 この物語を、俺は知っている。教会で開かれる子供向けのお話会で、何度か聞いたことがあったから。創作だと思っているが、何にしても好きな話だった。


「――それが、英雄であり反逆者であった彼女の最期の言葉となったのです。世界の希望となるはずの彼女が死んだのは、何故だと思いますか?」


 女性の問いに対して、子供達は口々に答える。


「う~ん、何でかな?」

「はんぎゃくしゃって何?」


 そもそも、言葉の意味も把握出来ていない子もいるようであった。そんな子に対しても、穏やかな笑顔を崩さずに彼女は言った。


「偉大なるロキ様に従わぬ者のことですよ。ウフフ……」


(ロキ……様!?)


 シギュン様と俺の探していた神様の名だ。滅多に聞くことはない。やっぱり、ここは関係がある。あの人だって言っていたし、この教会は似ているのだ。俺の通っていた教会と。いや、教会だけじゃない。この村の環境が、俺の住んでいた地域に似ている。


『あの人は、嘘をつく。誰もが騙される。それでも、私はあの人のやりそうなこと、大体分かる。あの人は、自分が楽しむ為ならば女にだってなる。だから、怪しいって思ったら必ず疑って。そうすれば、きっと見つけられる』


 運命の日、シギュン様から言われたことを思い出す。愛おしそうに目を細めながらも、その表情は愁いを帯びていた。愛しい人と離れ離れになり、疲れ果てた彼女の願いは俺に沁みた。


(じゃあ、もしかしたら……あの女性が? 探していた、ロキ様なのか? あえて、あの姿である理由は? 自身が神であると明かさない理由は何?)


「そっか~、だから女の人は死んじゃったんだ」

「可哀相だけど、仕方ないね」


 納得した様子で、子供達は頷く。


(こんな所でこっそり聞いている場合じゃない。多分、子供向けの会だろうけど……いいよね! 俺だって、ちゃんと信仰してるもん)


「巽、中に……って、え? え?」


 隣を向くと、知らぬ間に巽は頭を抱えてその場にうずくまっていた。


「違う……違う」


 苦しそうな声で、そう彼は何かを否定する。いつから、こんなことになっていたのだろう。少し前までは、隣で耳を澄ませていたというのに。俺自身、話を聞く為にかなり集中していて気付けなかった。


「あ、あぁ……」


 荒々しい呼吸、焦点の定まらぬ目、血の気がない顔。死ぬ間際の足掻きのように見えて、俺は怖くなった。


「ねぇ、巽? ねぇって」


 彼からの返事も反応もない。どうしたらいいのかと、一人で焦っていた時であった。


「それより……坊ちゃんも、そんな所で隠れていないでこちらに来たらどうですか? 歓迎しますよ。えぇ、貴方一人だけならね」

「え?」


 唐突に中で語っていた女性から大声で話しかけられ、俺は動揺した。

 

「不審者が――」


 今度は、背後からしわがれた男性の声がした。振り返る間もなく、激痛と痺れが首を襲い、そのまま意識を失った。

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