必ずや必ずや
―アスガード村 夕方―
放課後になってすぐにリアムに捕まってしまった僕は、アスガード村に訪れていた。今回の目的は、教会内部のようだ。前回を踏まえて、ちゃんと状況に合った服装を用意してくれていた。だからといって、気が弾むことはないけれど。
「よし、巽行くよ」
リアムは悪戯っぽく囁くように言うと、そろりそろりと教会の中へと入っていく。
(逆に怪しいよ……)
もう既に頭が痛い。どうして、普通に出来ないのか。少し前まで感心していたのが、恥ずかしいくらいだ。
「リアム、普通に歩いてくれ。ここに住んでいる人は、泥棒みたいにここを訪れたりはしない。それに、その歩き方だと潜入というよりも侵入だ」
「えぇ……うん」
そう指摘すると、彼は不満そうに忍び足をやめた。
(なんで、そんなに残念そうなんだよ……もう)
「じゃあ、気持ちを改めて進もうか……おっ、巽、巽。早く来て。なんか、子供達が沢山いるよ」
再び進み始めた彼は、教会内を見てすぐに足をとめた。そして、手招きをして僕に隣に来るように促す。
「ん? 子供が?」
中を見てみると、檀上では聖女が手を組んで何かを語っていた。確かに、彼女の周りには子供達が集まって静かに話を聞いている。
(あの聖女の正体は、ロキさんだったよな。これもまた、信仰心を搾取する為の活動の一環か……?)
「何を……しているんだろう」
「しーっ、巽。よく聞いて。耳を澄ませば、この位置からでも聞き取れるよ」
気になっていた僕は言われた通り、聖女の声に意識を向けた。
「――この世界が、まだ一つだった時。地獄も天国も同じ場所にあった時。命ある者が、唯一無二だった時のお話。その世界を支配する役割を与えられた男がおりました。それが、王様です。創造主様より命を受けたのです。最初こそ、王様は皆を思いやっていました。けれども、次第に王様はわがままになっていきました。そして、王様は沢山の人を殺しました。沢山の人を傷付けました。家族や恋人でさえも」
聞く限りでは、まだ語り始めたばかりだったようだ。何やら、興味深い話だ。子供相手に話すには、少々複雑そうな気はするけれど。
それでも、子供達は楽しんでいるようで口々に言葉を発する。
「王様悪い~!」
「創造主様が可哀相!」
「皆も可哀相だよ!」
そんな感想に、彼女は優しく微笑み語り続ける。
「ウフフ……ある時、そんなわがままな王様に、一人の女性が立ち向かいました。けれども、恐怖で皆を支配する王様の力を前にして多勢に無勢でした。女性は捕らえられて、剣を向けられました。しかし、それに対しても彼女は決して涙を見せることはありませんでした。そして、玉座で嗤う王様にこう言いました。『必ず、貴方は罰を受ける。他の者が与えないのなら、自分がやりましょう。奪った命の数だけ、それに相応しい罰を与えるまではこの命、何度でも蘇るでしょう。どこまででも追いかけ、必ず罰を与えましょう。必ずや……必ずや――』と。それが、英雄であり反逆者であった彼女の最期の言葉とな――」




