不都合なのは
―自室 朝―
鬼に睨まれる中で食事を終え、学校へ行く為の身支度を整えていた時、荒々しく部屋の扉が開かれた。ノックもなしに、本当に無礼な人だ。アルモニアさんは。いくら怒り心頭だったとしても、最低限のマナーくらいは守って欲しいものだ。
「……何ですか?」
血で汚れてしまった服を替える途中であった。もう少し来るのが早かったら、あられもない姿を見られてしまう所だった。
「後悔するわよ、あの双子を自由に招き入れるような真似なんて」
(開口一番に言うことが、それか。本当に嫌いなんだなぁ)
「急に入って来たと思ったら、それですか。アルモニアさん、貴方はあくまで監視者でしょう。過干渉はしないと自分で言っていたでしょう。誰を招くか招かないか、それを決めるのは僕です。貴方にどうこう言われる筋合いはありません。それとも、あれですか? アルモニアさんも遊んで欲しいんですか?」
そろそろ家を出ないといけない。面倒だから、と適当に彼女をあしらった。また遅れてしまうことは避けたい。リアムとの一対一の勉強会には、もう参加したくないし。普通に授業を受けた方が、楽であると学んだ。
「馬鹿なことを言うんじゃないわよ! こっちはね、心配してあげてるのよ。餓鬼が軽率に出入り出来るようになると、ろくなことがないわ。一に遊んで、二に仕事みたいな輩なのよ。学業だけじゃない、日常生活にだって支障が――」
もう決めたことなのに、ごちゃごちゃと口うるさい人だ。基本的には不干渉である監視者が、ここまで口を挟むことに何の意味があるのか。あの双子が、僕と密接に関わることにそんなにも不都合なことでもあるのだろうか。
もし、そうだったとしたら、その不都合は彼女のものではないかもしれない。彼女の上に立つあの男の不都合である可能性がある。ならば、それは起こさねば。
しかし、それは今ではない。今すべきなのは、学校へ行くこと。ただそれだけだ。
「――私様は、貴方のことを最優先に考えて……」
(あぁ、まだごちゃごちゃと言ってる。面倒だな、こっちは急いでいるのに。時間は待ってくれないし、学校も待ってはくれないのに!)
「黙ってくれませんか?」
「えっ、〇◆×……」
苛立ちから、思わず語気が強くなる。それに驚いたのか、彼女は口ごもった。ようやく、場が少し静かになった。これで、僕がまともに話すことが出来る。時間がない、端的にはっきりと言おう。
「アルモニアさん、貴方は本当にいつもいつも勝手です。自分にとって、気に食わないことがあったらすぐに声を荒げる。もういい加減にして下さい。監視者なら、監視者としていて下さい。都合良く、よく分からない権利を振りかざしてこないで下さい。僕が決めたことに、口を出さないで下さい。もはや、他人をここに招き入れることには慣れてます。厄介なのが、一人増えてもそんなに困りません。自覚して下さい、色々と。では、失礼します」
言いたいことだけを言って、僕は部屋を出る。ここまではっきり彼女に言ったのは、多分初めてかもしれない。そのことに関して、顧みる余裕はなかった。時間に追われていたから。




