ケチ女
―自室 朝―
「――ちょっと! いつまでここに居座っているつもり!? さっさと出て行きなさいよ。フレイヤ達は、ここにいることを許されてる訳じゃないんだから!」
「うるさいなぁ! 朝ご飯くらい食べさせてくれてもいいじゃない! ケチ!」
「そーだそーだ! ケチ女!」
「誰がケチ女よ、くそ餓鬼共!」
扉の向こうから聞こえてくる怒鳴り声。あまりの騒々しさに、僕は目を覚ました。最悪の目覚めだった。
「何なんだよ、朝から……」
体が怠い。睡眠時間が短かったせいだろうか、ほとんど疲れが取れていない気がする。
「はぁ……」
どうせ学校はあるし、二度寝をするのも得意ではない。これは、もう起きろということなのだろう。ため息を一つついて、ベットから降りる。
「子供が三人いるからって、好き勝手するのはやめて欲しいよ。本当……」
目をこすりながら、僕は部屋を出た。すると、すぐ近くで彼らは言い合いをしていた。深夜、フレイヤとかいう少女を運んだ部屋の前で。迷惑な話である、まだ寝ている人がいるというのに。喧嘩でしか、コミュニケーションが取れないのだろうか。もう片方は、いい歳した大人なのに。
「朝から何を喧嘩しているんですか……?」
「わーん! ケチ女がいじめるのぉ~!」
「お兄ちゃん、俺らを助けてぇ~!」
僕が声をかけるなり、双子達が甘えた声で泣き真似をしながら走り寄ってきた。そして、僕の背後に隠れて、アルモニアさんに向かって舌を出した。
「お兄ちゃん、って……」
僕を味方につける為の、心にもない言葉だ。昨夜は、容赦なく罵声を浴びせてきた二人だし。ここで、僕が許可を出せば文句を言われないと分かっているからだろう。
「ねーねー、お願いお願い。うちらにも、ご飯頂戴? お腹が空いていたら、お兄ちゃんのご飯も狩れないよ?」
「お兄ちゃんは、ケチ女と違って優しいもんね? 俺ら知ってるよ。ね? ね? お願い~」
目の前に移動してきて、目をキラキラと輝かせてきた。弱いのだ、この目に。どう足掻いても、負けてしまう。
「まぁ……いいよ」
「「わーい! やったー!」」
双子達は、嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねる。ここで、僕が拒否をすれば面倒になるのは目に見える。それに、僕の為に身を張ってくれているのは事実だし、そんざいに扱っても僕には得がない。優しくすれば、もしかしたら口を滑らせてくれる可能性がある。あの男や、組織についての詳細を。
「はぁ!? 巽、何言ってるの!? そもそも、貴方が願い出たことじゃないのよ。監視者以外の者を中に決して入れるなって!」
アルモニアさんは、憤然とする。
「えぇ、そうですね。最初の契約で、確かに僕はそう言いました。自分一人でどうにか出来る、そう思っていたからです。誰の手を借りずとも、僕は生きていけると。でも、それは浅はかな考えでした。今までやってこなかったことが、突然出来るようになる訳がないんです。結局、僕は皆に助けて貰っている。その人達に、僕が出来ることといったらこれくらいのものですから。だからね……フレイ、フレイヤ。今後も、ここに来るといい。時間があれば、遊び相手くらいにはなれるから」
「お兄ちゃん~! ぎゅー!」
「ぎゅ~う!」
僕は笑みを作って、双子達に向けた。すると、彼らは抱きついてきた。好きでもなければ、家族でもない相手に抱きつかれるのは苦痛だが耐えるしかない。笑顔を崩さぬよう、僕は二人を抱き締めた。




