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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第三十二章 不遜な者
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夢の世界から出たくない

―アルモニア 自室 早朝―

 小鳥のさえずりと窓から差し込む日の光で、自然と心地良く目が覚めた。


「ん~っ!」


 体を起こして、大きく伸びをする。こんなにも疲れのない目覚めがあるだろうか。専門家がよく言う、質の良い睡眠が取れた証かもしれない。


(巽が、子守歌を歌ってくれたお陰かしらね)


 ゆったりとした心地良いリズムで、言語が違っても心身に馴染んだ。気が付いたら、眠っていた。彼が雑にベットに置くものだから、一瞬途切れてしまったが、少し会話をしたらまた眠気が襲ってきて眠りへと誘われた。


(まぁ、ちゃんとボスに言われたままに子守歌を歌うように促せたし……こっちは、質の良い睡眠も取れたし、素敵な夢も見れたし、いい日になったわ)


 子守歌とは、子供を寝かしつけたりあやしたりする時に歌われるもの。歌われる時には、親が子に密着しているから子供は落ち着くらしい。さらに子守歌特有の技術があれば、老若男女や血の繋がりを問わず、巽のように対象を眠らせることが出来る。


(不思議なものね。ただ歌っただけで、ここまで出来るなんて。でも、歌術というものがこの世界にはあるし……それが関係しているのかもしれないわね。そんなものまで、取得してるなんて……ちゃんとボスに報告しておかないと)


 たかが歌、されど歌。その効果には、この私様も感動せざるを得なかった。だって、その歌のお陰で私様はあの頃に戻れたのだから。ただのカラスだった頃に。両親の愛に包まれていた頃に。

 もう戻れはしない。まぁ、戻った所で私様が求めていたものと、両親が求めていたものは違う。戻っても、行き着く先は変わらないだろう。そう心で分かっていても、求めてしまう。劣っていて、選ばれなかったと見切ったはずなのに何故なのか。


(もう一度目を閉じたら、夢の中にいけないかな。夢なら醒めなければ、終わることはないから)


 夢の中には、幼い頃に私様が求めていたものがあった。家族で、ピクニックに行った。『いつか、一緒に行こう。平和になったら、堂々と歩けるから』と両親が言って、結局実現されることもなく全て無茶苦茶に壊れてしまったが。それが今、夢の中で叶った。


(空虚で無意味なのに……)


『――それはね、子供は親を愛してしまうものだからだよ。アルモニアは、自分自身に嘘をついたんだ。無意識にね。君の場合は、今も昔もずっと愛し続けたままなのさ。まぁ、認めたくないだろうけど。それで、どうする? 君は、どっちの夢を叶えたい? 自由? それとも両親の蘇生?』


 ふと、脳裏にボスからかけられた言葉がよぎった。反射的に、首を振ってそれを落とした。


「……違うっ!」


 組織で役職を与えられれば、代わりに願いを叶えて貰える。その際に一連の流れがあっての、言葉。前後ははっきりと覚えていないが、そこだけは鮮明に記憶に残っている。

 昔は、確かに愛していた。けれど、今は違う。私様が愛しているのは、過去の両親だけだ。だから、否定して前者を選んで世界各国を巡る手品師になって自由に歩き回った。


「いいのよ、どうせ世界は終わる。私様の役目も終わる」


 醒めてしまったし、もう仕方ない。現実は、そこにあって待ち構えているのだから。気持ちを切り替えて、私様は巽の部屋へと向かった。

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