目覚め
―廊下 夜中―
ダイニングルームだけで終わると思っていたのに、結果は残酷だった。至る所に血がぽたぽたと落ちていたのだ。あの子供達の足跡をしっかりと残していた。歩いて移動したのだから、当然といえば当然だがショックだった。
「はぁ……」
(まぁ、まだ魔法が使えるだけマシか)
僕らには、当たり前のように魔力という概念があって、魔法や魔術が存在する。使いこなせるようになれば、あっという間に解決する。
(水で汚れを落として、乾燥させよう)
対象に手をかざして、どうしたいかと考えればそのようになる。これは、この国的に正規の方法ではないようだが、僕としてはずっとこれでやってきたし慣れているので変えるつもりはない。
(よし、落ちた)
新鮮なものであったので、まだ落ちやすかった。汚れの範囲が大き過ぎたり、染み込んだ汚れだと、中途半端に残ったりもする。そうなると、そういったことに長けた人物に任せるのが僕の国では一般的だった。それまでは、基本は自分でやる。
(ゴンザレスの世界とか、この世界にもたまにある魔力に頼らない国はどうやっているんだろう。機械とかがあればいいけど、それがなかったら大変だよなぁ)
きっと、彼らには彼らなりの方法があるはずだ。僕らの大半の者達の生活の基盤が魔力であるように、彼らもまた別の基盤がある。それを元に、広がっているはずだ。それを体験してみたいとは思わないが、興味はある。
(もっと見てみたい。どんな世界が、僕の知らない所で広がっているのか)
本望ではなかったけれど、長期間に渡って文化の全く違う海外に住んだことで、視野が知らぬ間に広がってきたのかもしれない。もしくは、ただの現実逃避がしたいだけなのか。帰れば、待っているのは閉ざされて限られた世界だから。
「ふぁぁあ……」
座ったままでも眠れてしまいそうだ。眠たくて眠たくて仕方ない。本当は後回しにしてしまいたかったけれど、一応客人もいることだし環境を整えるのは最低限のマナーだろう。
一つ欠伸をして、部屋へと戻ろうとしたその瞬間――。
「騒々しい……汚らしい、壊さねば……吾輩の肉体は……どこだ――」
眠たそうで、怒りの滲んだ声が廊下の奥から響いて聞こえる。
「どこだ……」
呼ばれている。そんな気がして、僕は声のする方向へと足を一歩踏み出した。
――行かないで!――
突如として、身につけていたペンダントが開いてオルゴールが鳴り響く。それに紛れて、小鳥の声が聞こえた。気のせいだと言われればそれまでで済んだ。けれど、僕はその言葉に従ってしまった。声のする方へとは向かわず、真っ直ぐに僕の部屋へと行った。




