お顔に出やすい王様
―屋敷 夜中―
「ふぅ……」
双子達から順々に、最後にアルモニアさんを部屋へと運んだ。途中で起きるものかと思ったが、深い眠りに落ちている様子だった。
(ダイニングルームも片付けないと。あの双子達に付着している血はどうしようか……でも、寝かせておいて起こすのは中々酷か。僕も、もう眠くて目を開けているのも辛いし、片付けたらさっさと寝よう)
ぐっすりと眠るアルモニアさんに背を向けて、その場から去ろうとした時であった。
「ん?」
それを阻む者が、僕の腕を力強く掴んだ。
「……寝ていなかったのですか? わざわざ、寝たふりですか?」
振り返ると、ベットに寝転がったまま、こちらを見つめるアルモニアさんの姿があった。
「寝てたわ。さっきまではね。でも、ベットに置かれた瞬間に目が覚めたの。この私様を抱けるなんて、巽は幸せ者ね」
「あぁ、そうですか。それで? 何故、僕の腕を離してくれないのですか?」
面倒なので、適当に流すことにした。
「あら、こちらとしては親切心のつもりなのだけれど。知りたくないの? あの双子達のこと。聞きたいな、って顔してたけど」
思いも寄らぬ、彼女からの提案だった。
「ねぇ、どっち?」
唐突の提案に困惑する僕に、苛立った様子で彼女は問いかける。少しでも、あの男に関わる情報を知りたかった僕としては願ったり叶ったりだった。
たとえ、嘘であったとしても――何もない所から嘘は生まれてこないから。真実から、嘘は生まれてきているから。
「……教えて下さい。あの双子達の役割を」
「いい子ね。素直って素敵。ああだこうだほざかないから」
彼女が、子供を嫌うのは多分同族嫌悪的な感情だと思う。それを指摘すれば、間違いなく機嫌を損ねて情報を得られる機会を失ってしまうから堪えるが。
「あの双子の兄が、フレイ。妹がフレイヤ。見ての通りの餓鬼ね。あの子らの体の中にも、巽と同じように龍の力が宿ってる。確か、双龍の力が少しだけ。普段から喧嘩ばっかりで、龍の力をまともに引き出すことすら出来ないから、ボスが二人で協力する任務に最近就かせたの。それが、狩りね」
「狩り……だから、あの子達は血まみれに?」
「そうよ。暗がりの方が、獣達も活発で狩りやすいから。運びやすいように解体してるから、血まみれなのよ。それで、その狩った肉を夜中に受け取るの、毎日ね。でも、今日はかな~り遅く帰ってきたせいでいつも以上に待ちぼうけになって、あんなにやかましかったみたい」
僕のせいで、妹とそう年齢の変わらない彼らにそんな危険なことをさせてしまっていたなんて。言葉の通じない相手と向かい合うなんて、この年頃の子に耐えられるものなのだろうか。しかも、自分の為じゃない。そんなに、絆も深くない他人の為に時間を奪われるなんて苦しいだろう。
「そうですか……じゃあ、後で謝っておかないと」
「大丈夫よ、朝になりゃ忘れてるんだから。下手に掘り返さない方がいい。あいつらは面倒だもの」
(そっくりそのまま返したいな……)
「……分かりました。本当に親切ですね」
「ふん。私様はね、さっきの歌のお陰で気分がいいのよ。何言ってるのか、まったく分からなかったけれど不思議なものね。まぁ、いずれ分かることだしね。その頃に、私様やあの子らはいないと思うけど……ね。さ、満足したし、寝るわ。私様は一人で寝たいから、さっさと出てってくれる? 言っとくけど、これ以上のことは絶対に言わないからね。それじゃあ、お休み。お顔に出やすい王様」




