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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第三十二章 不遜な者
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人の鼓動

―屋敷 夜中―

 双子達は、僕に暴言罵声を浴びせた続けた。先ほどまで、二人で喧嘩をしていたとは思えないほどに見事な連携で。僕に反論などをする余地はなく、致し方なく適当に頷きながら聞き流すしかなかった。


(眠い……早く終わってくれ)


 欠伸を堪えながら、口撃が終わるのをただ待ち続けていた。


(何言ってるのか、よく聞き取れないし)


 最初の方はそれなりに聞き取れたものの、次第に独特な訛りと舌足らずさが相まって理解出来なくなっていた。


「〇◇×▽……だから、〇◇◆……あんたはバカ……」

「むぅ……×〇◆×……誰のお陰で……」


 どこでスイッチが切れたのか、二人は突然眠そうにし始める。それでも、僕への口撃はやめていなかったが。


「あらあら、餓鬼が夜中だし疲れて眠そうになってきちゃったわねぇ」


 大人げなくアルモニアさんが、更なる燃料を投下した。しかし、それに対して二人は今までのキレが嘘のように言葉を返す。


「うちらは餓鬼じゃ……ない……」

「お前の方が……よっぽど、餓鬼……」

「はん、あんたら七歳でしょ。私様は二十歳なんだから。ほらほら、お子様はこんな時間まで起きていたらお化けが怖くて仕方ないでしょ。子守歌でも歌ってあげましょうか?」


(この場合、双子の言っていることがどちらかと言えば正しい気がする。大きな子供を相手にしているようなもんだしな、アルモニアさんは)


「アルモニアの歌は汚いからいい……フレイヤ、歌えよ……」

「はぅう、なんで、あんたの為に歌わないといけないの? フレイが歌いなさいよ……」

「ちょっと、待ちなさいよ。今、なんて言ったの!? フレイ!?」


 今にも眠りに落ちてしまいそうな双子達に、彼女は大声で容赦なく怒りをぶつけた。しかし、もはやそれに応じる元気も気力もないのか、二人揃って僅かに口を動かすだけであった。


(まぁ、事情は後から聞けばいいか。二人にでも、アルモニアさんにでも。どうせ、この状況では聞けないだろうし、双子は眠らせた方がいいか。子守歌……一番上の姉上である睦月が皐月に歌っていたあれでも通じるかな。言語は違うし、恥ずかしいけど……)


 それでも、このどうしようもないやかましさが続くならと僕は意を決し、恐る恐る口を開いた。


「兎舞う、月の()に♪ コオロギが唄歌う♪ 夜の宵に耳澄ませ、(みそ)かなり身を委ね♪」


 睦月曰く、よく母上が歌っていたものらしい。母上が、この子守歌を歌っている姿は当然ながら見たことはない。睦月が歌っていたのを、何度か聞いて偶然覚えていた。歌には自信はないが、歌う時には人の鼓動を意識することが大事だと言われたことは強く印象に残っていた。


「時経つ(うつつ)を、忘れるように♪ 夜よ、月よ、眠れる子を包み込め♪」


(優しい鼓動を意識して……急ぐのも、遅くなるのも駄目)


「月の光、水面(みなも)を照らす♪ 兎が海に舞う♪ その音を、聞きながら静かに眠れ♪ ふぅ……こんなもんで……って、あれ?」


 気が付くと、双子達もアルモニアさんも心地良さそうにすやすやと寝息を立てて眠っていた。


(やっぱり全員子供だな……)


 このまま、床に眠らせておく訳にはいかない。僕は眠気を堪えながら、三人をそれぞれベットのある空き部屋へと運ぶことになってしまったのだった。

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