大炎上
―屋敷 夜中―
「うぇえええぇん!」
「うわぁああんっ!」
「もう勘弁してくれないか……」
かれこれ、一時間はこの調子だ。背後から不意を狙ったとはいえ、あくまでも峰打ちだ。そこまでの強い力でやったつもりはない。あれくらいの剣幕で脅していたのだから、子供とはいえでもそれくらいしなければ効果がないと思ったのだ。
しかし、峰打ちを食らわせた瞬間に、彼らはその痛みに耐えかねて泣き喚き始めたのだ。人の目は、あまりないとはいえどこで見られているかは分からない。僕の事情もある程度は知っているようだし、持っている物のこともあって、致し方なく彼らを招き入れることにした。
「いた゛ぁい! いた゛ぁいよぉ゛!」
「うぅうっ、フレイのせいたからね!」
「ちげぇよ! フレイヤのせいだっ!」
落ち着く様子はない、それどころか悪化していった。お互いに責任の擦り付け合いを始めたのだ。
「あんたがちんたらしてるからでしょ!」
「ちんたらしてたのは、馬鹿でアホなフレイヤだ! お前みたいなのが、なんで妹なんだろうな!?」
「むきぃいいいっ! 決めた! やっぱり、あんたから殺ってやるわよ!」
そして、ついに二人は取っ組み合いを始めた。血まみれの状態で何をしているのか。二人は兄妹、顔がそっくりであることを見ると双子だろう。
そんな光景を見ていると、ふと幼き日の自分と美月とのことを思い出した。毎日のように喧嘩して、ちょっとしたことで取っ組み合いになった日々を。
『馬鹿美月!』
『知ってる? 馬鹿は馬鹿って言葉が大好きなの。そして、語彙力がないから、まずはその言葉を使いがちなのよね。そんな子には、それに合わせたようにしてあげないとね。お馬鹿さん』
『僕は馬鹿じゃないもんっ! 馬鹿じゃ……あぁあああ゛あ゛っ!』
今思えば、本当にくだらないことで言い合いをしていた。何かにつけて因縁をつけて。でも、その日々が不幸だったとは思わない。情けなかったとは思う。でも、どこか安心していた。目に見えぬ恐怖に襲われる中で、美月との喧嘩は僕にとって不安やストレスの捌け口になっていたから。
「――あ~、もううるさい。うるさ過ぎる。これだから餓鬼は嫌よ。特に、すぐに喧嘩する短気馬鹿は。もう我慢の限界だわ」
やかましさに耐えられなくなったのか、ついに身を潜めていたアルモニアさんも出てきた。すると――。
「アルモニアっ! うちを待たせた張本人っ!」
女の子は、鬼のような形相で彼女を睨み付けた。その言い方が不服だったのか、アルモニアさんも強く反論する。
「私様は悪くないわよ、これだから子供は! 大人の事情ってものが分からないのかしらねぇ!? 文句があるなら、この男――巽に言ったらどう!?」
「え? いや、僕は……」
「そういえば、俺に痛い思いをさせてるのも……」
「うちが待つ原因になったのも……」
「「全部この男のせいだっ!」」
そして、双子達の間で始まった喧嘩はアルモニアさんに飛び火して、僕まで燃やしていくのだった。




