馬鹿には花はいらない
―屋敷前 夜中―
寝ぼけ眼をこすりながら、僕はふらふらと帰路に着いていた。
(えっと、魔法とは……人の手が加えられていないもの、だっけ?)
頭の中が、勉強会でやったことでいっぱいだ。リアムは中々のスパルタで、僕が用語を覚えるまで解放してはくれなかった。まさか、こんな時間になるまで許して貰えないとは。身も心もボロボロだ。早く休みたい。
「あぁぁあああ! もう! これだから頭固いくそ大人は! 入れろったら入れろってぇ!」
「うちらは、ボスから派遣されてるのよ! こんな扱いは不当よ! 普段は、この時間に受け取りじゃない。いない方が悪いんじゃないの!?」
「規則故! 出来かねます! 例外はありません!」
(なんだ……揉めてる? 騒がしいな)
よく目を凝らしてみると、門番と二人の人物が揉めているようだった。背格好的や声色的に、来訪者は子供だ。しかも、その二人はあの男の関係者であると名乗っていた。何が何でも入ろうとしているようだが、それが叶わず駄々をこねている様子だ。
(それにこのにおいは、肉と血か?)
何かが起こる気がした。僕は息を潜めて、刀を抜きながらゆっくりと彼らに近付く。
「むぅううう!」
「フレイヤ、何言っても無駄だ。こいつら殺っちゃおうよ。子供だからって、俺達のこと舐めてんだよ」
「えぇ? そういうの大嫌い。うち、待つのと子供扱いされるの嫌。嫌いなことを全部されたら、殺してもいいよね。そうしたら、面倒なことも終わるか……よし! 殺そう」
「は? は? 何を馬鹿なことを……いくら、あの方の側近とは言えども、そんな横暴な行動は許されません!」
「お、大人をっ! 馬鹿にしないで頂きたいっ!」
一部始終だけを見れば、間違っているのはどう見ても子供達だった。規則には従わなければならないし、それを破れば門番達の将来にだって関わってくる。
唐突で意味不明な脅迫に、門番達も必死で言い返していたが、恐怖は拭い切れてはいなかった。僕もだが、彼らも本能的に感じ取ったのだろう。この子供達が出す、殺気に。脅しだけでは終わらせるつもりがない、その様子に。
「フレイ、殺っちゃいましょう。もう限界だわ。それに眠たいしね。ちゃんと証拠隠滅さえすれば、どうにか誤魔化せるわ。こいつらの役割なんて、誰でも出来るんだからさ」
「うん。どうやって殺すの?」
「どーでもいいわ。うちはこっちの馬鹿を殺すから、あんたはそっちの馬鹿を殺して。そいで、肉は巽? って奴に食わせちゃえばいいのよ。肉なら何でも食うでしょ」
「雑だなぁ。ま、時間ないし。いいか。馬鹿には、馬鹿っぽい死に方が一番だ」
二人の足元には、沢山の動物が転がっている。しかも、彼ら自身も血だらけだ。そんな二人を前に、門番達はよく逃げ出さずに職務を全うしたものだ。彼らには、以前迷惑をかけてしまったし、ここで一つ恩を返しておこう。
僕は背後から間合いを詰めて、子供へと刀を振り下ろした。




