勉強会
―学校 夕方―
なるべく人の目が少ない道を通りながら、僕らは一度学校へと戻った。どうせなら人を喜ばせながら帰りたいなどと、意味不明なことを言うリアムを何とか説得して。
そして、学校に戻って即座にメイクを落として着替えをした。やはり、普通の格好が一番安心する。だが、そこから先が問題だった。
「ねぇ、リアム……もう勉強なんていいから帰らせてくれないかな?」
授業はとっくに終わってしまっていたし、リアムが届けを出してくれているとのことだったので帰ろうとしたら、彼にとめられてしまったのだ。そして、彼主催の勉強会に強制参加させられた。
「何を言っているんだ! 勉強を怠った分は、ちゃんと取り返さないと駄目だよ。俺は、想定して先にやってたけど、巽はそうじゃないでしょ!」
先ほどまで、ピエロの格好で駄々をこねていたと思えないくらいの真剣な表情で正論を投げてきた。
(心に刺さる……って、でも元はと言えばリアムのせいじゃないか! 遅刻の原因だし、サボらせてきたのもそもそもリアムだ!)
勢いに負けて、言い包められてしまう所だった。
「誰のせいだと思ってるんだ!? 誰のせいで、授業に出られなかったと思ってるんだ!? それに、今日はもう疲れたんだよ! 帰らせてよ!」
「だから、勉強会を開いているんだよ! 勉強で頭を使えば、身体的な疲れは取れるから頑張ろうよ!」
「何を言っているんだ……? 勉強で身体的な疲れが取れるはずがないじゃないか、リアムの考え方を理解出来ないんだけど」
「まだ勉強会は始まって五分だよ! まだ効果は分からない!」
「分かりたくもない……」
魔術や魔法の仕組みを論理的に説明されても、ちっとも分からない。開始一分くらいで頭が痛くなってきて、三分には虚無感に襲われていた。既に理解していることを、別の方法で理解するというのが苦痛だった。この国では、それが当たり前だという。回り道にも程がある。
「ほらほら、やるよ! 巽、そんなんじゃ駄目だ! 俺の世界の巽は、もっと意欲的だったぞ! 俺は、彼を心の奥底からリスペクトしてる!」
「見た目は一緒でも、中身は別物だよ。僕は勉強は嫌いだし、頭を使うことはもっと嫌だ。一緒にしないでくれ……」
名前も顔も、何もかも全て一緒。けれど、人格は別人だ。生きてきた世界が違う、見てきた世界が違う、周囲の環境が違う。その上に形成されているものが、同じであるはずがない。結果、このような差が生まれてしまった。その差が、僕にとってコンプレックスであることをほとんどの者は知らない。
「何を言っているんだ、そんなことは知ってるよ! 俺が言いたいのは、ゴンザレスに出来たことが、君に出来ないはずがないってことだ! 君にだって出来る! ただ、きっかけが今までなかっただけさ! ほらほら、やろうやろう! 後からなんて、結局やらないんだしさ! 最初から諦めてたら、どこまでも変われないよ!」
リアムは、深く考えて発言をした訳ではなかったのかもしれない。思ったことを、思ったままに述べただけ。それでも、僕は少し嬉しかった。その理由は、言葉では上手く説明出来そうもない。
ただ、もう少しだけ頑張ってみよう――そう思った。




