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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第三十二章 不遜な者
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潜入らしい潜入をしよう

―アスガード村 昼―

 社会的な死とは、まさにこの僕の状況を指すのだろう。


「ぜぇ……ぜぇ……」


 自由を奪われ、不安定なボールの上で惨めな格好で晒され続け、疲れ果てるまでそのままだった。解放される頃には、人っ子一人見当たらなくなっていた。


「巽、器用だね? もしかして、初めてじゃないの? 玉乗り経験者?」


 僕の気苦労も知らずに、ニコニコ笑顔をリアムは浮かべている。


(半殺しくらいにしてやりたい。でも、堪えろ……僕は、彼の親友という設定なんだ。今は、彼の思うがままに自由にさせてやらないと……向こうから、確実に信頼を得る為に)


「……そんな訳ないだろ? こんな格好してるだけで恥ずかしいのに、ボールから落ちたら惨めだよ」

「なるほど、巽はプライドの為に頑張ったんだね! 凄い! それだけの為に、ずっと頑張ってボールの上でバランスを取り続けるなんてかっこいい!」


 彼は、楽しそうに手を叩きながら言った。その発言と態度が、僕の癪に障った。


「それって褒めてるつもりなのかな。僕が自意識過剰でなければ、かなり馬鹿にしているように聞こえるんだけど」

「えぇ!? 本当に尊敬してるんだよ。不慣れなのに、俺の無茶振りに応えてくれてさ……」

「一応、そういう感情はあるんだね……ところで、リアムの満足行く結果にはなったのかな?」


 状況に合わせた潜入とやらが一切出来ていない時点で、普通に考えれば完全なる失敗だ。ただ、彼は普通とはかけ離れた位置に存在している為に基準が難しい。なので、一応本人に確かめる必要があった。


「う~ん、何も反応がなかったからなぁ。成功とは言い難いねぇ。失敗でもないと思うけどさ! ま、可もなく不可もなくって言った所かな!」

「え……!?」


(何を根拠に失敗していないという自信が!?)


「この村にいるらしいんだけどなぁ。あの人が、読み間違える訳がないし。潜入度合いが足りなかったかなぁ」

「は、は……そうか。でもさ、だとしたらリアムの言っていることはちょっとおかしいよ。潜入って言うのは、潜むってことだ。潜むってことは、その場に馴染んで静かに隠れるってことだから」


 ちゃんと教えてあげなければ、彼はこれからも同じ過ちを繰り返し続ける。それに、僕まで付き合わされる羽目になる。全てが徒労に終わってしまうということだ。それだけは避けなければ。


「このやり方で、見つけ出したいなら……潜入とは言わない。露骨な罠を見せているようなものだから」

「えぇ……でも、潜入って響きがかっこいい……使いたいなぁ」

「なら、潜入らしい潜入をしよう。このままじゃ、いつまで経っても出てこないと思うな。その神様は、どうやら意地悪がしたいらしい」


(この村にいる神様を自称する奴は、ロキさんしかいない。この騒動に気付いていない訳がないんだ。どっからか楽しげに見ているのかもしれない。あの性質を考えるに、向こうから出向いてくる訳ないよね。僕らから歩み寄らない限り、きっと。優しそうには見えないからな)


「わぁ! 流石は、巽! よし、今日は一旦出直そう!」


(これが本当に、あのゴンザレスが妬んだ男なのか? 確かに天才かもしれないけれど、あまりにも……抜け落ちている)


 そんな思いを抱きながら、僕らは一度村を後にすることにしたのだった。

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