穴がないなら掘りたい
―アスガード村 昼―
教会に群がっていた人達は、僕らを見るなり怪訝そうに顔を歪めた。それに対して、リアムは臆する様子もなく戯け続ける。
(僕を同類だと思わないで、辛過ぎる……)
「元気ないねぇ、皆ぁ~♪ 俺と一緒に遊ぼう、歌おう? そして笑おう♪ ほらほら、俺を見てご覧♪」
小さなパンを大事そうに握る彼らは、唐突に現れて歌い出すリアムに警戒心を剥き出しにしていた。ちょうど、配給が終わったくらいだったのだろう。飢えている彼らには、待ち切れない時間だったはずだ。
(見てられないな、本当に。出来ることなら、他人のフリをしてしまいたいくらいだ)
しかし、この格好故にそれは叶わぬ望みであった。そうこうしている間に、彼は小道具を色々出して一方的にショーを展開し始めていた。
(全然潜入してない……いや、こんな格好してここに時点で潜り込める訳がないよな。ただの悪目立ちだよ、これじゃ。ピエロの衣装を出し始めた時点で、それはやめようと言い切るべきだった。不審者として、完全に警戒されて情報なんて手に入れられる訳がない。この騒々しさ、多分ロキさんも気付き始めてるよな。最悪だ……)
場にあった潜入の仕方は、いくらでもあったはずなのに。よりにもよって、何故これなのか。醜態と滑稽さを晒し上げにしてやる意味が、未だに僕には理解出来ていない。そんな状況の中、一人で楽しげにしていたリアムが満面の笑みを浮かべながら僕に顔だけを向けて言った。
「も~何してるの? そんなにぼーっとしている暇なんてないだろう?」
ついに、何もしないという訳にはいかない状況に陥ってしまった。皆からの視線が鋭く突き刺さって、傷だらけ。穴があったら入りたい。なければ、自分で掘りたい。何が何でも入りたい状況だった。
しかし、それを彼は許してはくれなかった。
「ほらほら、早くこちらへおいで♪ 一緒に遊ぼう、ラララララ♪」
人差し指を立てて、彼は手招きをした。すると、僕の体はまるで糸にでも引っ張られるように吸い寄せられる。
「急に人の……わわわっ!?」
予告もなく魔法を使うなと言うつもりだったのだが、足元がつるつると滑ってそんな余裕はなかった。何が起こっているのか、自分自身でもあまり分からない。ただ状況を端的に説明するならば、僕は真っ赤な巨大なボールの上に乗っていた。
「ほ~らほら~♪ 上手に乗らないと落ちちゃうぞ♪」
不安定なボールの上、動いても動かなくても勝手に転がり落ちてしまいそうだった。浮遊魔法を使って逃れようとしたのだが、それは封じられた。そう、リアムによって。
「ちゃんとバランス取らないと、楽しくないよぉ♪ 魔法なんてつまらない♪ ほらほら、皆もそう思うでしょう? 彼は堪え切れるかな♪ 堪え切れると思った人は、大きな拍手を下さいな♪」
しらけ切り、散っていく人もいる中で空しくも滑稽に皆を煽るのだった。




