僕らは道化
―アスガード村 昼―
「はぁ……」
「こらこら、巽! ため息なんてついてたら、幸せが逃げちゃうよ」
リアムに連れられて、僕は変装して化け物事件の被害者達の出身地である村に来ていた。気味悪いほどに廃れ、生きているのか死んでいるのかすら分からない人達が地面に寝転がる。その気味悪さを引き立てるのは、村の中央部に唯一綺麗に立っている教会だ。
僕は以前、ここに来たことがあった。アルモニアさんに連れられて、訳も分からず強制的に。まさか、また来ることになるとは思わなかった。
(偶然? それとも必然?)
ここの教会では、ロキさんを神として崇めている。実に趣味の悪い場所。彼曰く、自身を信仰しない者には最低限の生活すら与えたくもないし、野垂れ死んでも仕方がないと笑いながら言っていた。出来れば、もう二度と来たくはない場所だった。
「君は学校サボっていいの? こんな所……」
「俺は特別学科だからね。結構自由なのさ。フフフ、俺が申請を出せば巽だってその恩恵にあやかれるのさ。俺だって、そこまで馬鹿じゃないよ。心配しないで、俺はもう一か月分の予習は済んでる。テストで、どんな難問が来てもへっちゃらさ!」
(僕は大丈夫じゃないんだけどなぁ。特別学科だかなんだか知らないけど、リアムの基準で物事を判断されるなんてたまったもんじゃない。しかも――)
「へっちゃら? あぁ、そうかい。まぁ、そうだね。こんな格好をしている現実に比べれば、学校のテストの難問なんて可愛いもんだね」
泣きたくなる、こんなおどけた道化の格好をして公衆の面前に晒されているせいで。
「似合ってるよ、巽! でも、ピエロなら笑顔じゃないと駄目だよ。ほらほら!」
彼は、僕の頬に指を当てて無理やり吊り上げる。
(皮肉も通じないんだな、彼は)
「ねぇ、本当にこんな格好じゃないと駄目なの?」
「別人にならなきゃ変装の意味がないじゃないか」
「ここに知り合いでもいるのかい?」
「いいや? でも忍び込むなら、本来の立場は完全に隠さないと! ほらほら、皆見てるよ。俺らは、旅する大道芸人さ~♪ ほらほら、皆で笑おう。皆で楽しもう。皆で笑えば、皆楽しい~♪」
(潜入ごっこがしたかっただけってことか……これで、満足してくれるならそれでいいけど)
僕が憂鬱な気持ちになる一方、リアムは独特なメロディーに歌を乗せて、人だかりの出来ている教会へと向かっていった。真っ赤な鼻に、独特な髪型のカツラ、真っ白な顔に派手なメイクをしていてよくそんなにも楽しげに出来るものだと感じながら、僕は彼を追った。




