道連れにして
―街 夜中―
リアムのその視線の先にあるのは、夜の闇。ひっそりとした不気味さと、何があるのか分からないという未知への恐怖だけがあるように思えた。
「何も……持ってない? 君が?」
何も持ってないと語ったリアムの言葉を信じることが出来ない。何もなくて、新入生代表として堂々と挨拶出来るものだろうか、あんなに意欲的に学習出来るものだろうか。
本当に何も持っていない人間は、何もすることが出来ない。彼と僕の捉え方の違いがあるのかもしれない。
「どうして、そんなに信じられないみたいな顔してるのさ?」
リアムは僕の方を向いて、そう不思議そうに首を傾げた。
「だって……君は出来ることがあるじゃないか。授業は、誰よりも意欲的に取り組めて理解も出来る……そんな人は中々いないと思うよ。課題を楽しめたり……授業も楽しめたり……僕にはどれも出来ないから。出来ることがあるのに、何も持っていない訳がないじゃないか」
「たったそれだけ、やろうと思えば誰だって出来ることばかり俺はやってる……それが嫌で、変わろうと思って俺はここに来たんだ。一度きりの人生、興味を持ったことには全部全力で取り組みたい。でも……君からそう見えたってことは、その努力が実を結んだってことかな? フフフ!」
「努力してるのかい?」
まさか、こんな無謀な行為を頑張ってやっているのだとしたら早急にやめるべきだと思う。危険な場所には努力して近付くべきじゃない。
「誰かがやらないことに挑戦することに、ね! 流石の俺も少し怖いんだよね、誰もいない道を進むのは。でも、怖がってても仕方がない。例え危険な道でも冒さなければ、一度感じた感情を完結させることは出来ない!」
「だから、僕を道連れ……にしてるの?」
それっぽいことを言っているが、ただの迷惑行為になりかねない発言である。
「そういうことにもなるかもね! ちょっと安心出来る」
「勘弁してよ……」
頭が痛い。もう帰りたい。僕はリアムの感じるワクワクとかいう気持ちを共有したくもないし、道連れにされたくもない。
「お! 見えてきたよ! あそこだよ!」
リアムは気持ちを切り替えるように、楽しそうに少し遠くを指差した。すると、そこは人が入ることが出来ないように簡易な規制線が張ってあった。夜中の暗闇でも目立つように蛍光色が使用されている。
この規制線に触れるともれなく、死なない程度の電流が流れて気絶する。やっぱり、来るべきではなかった。それなのに、リアムは怯むことなくどんどん進んでいく。
「リアム! 待って!」
僕がそう呼びかけても、彼はとまる様子もない。もはや、僕の声など届いていなかった。
「凄い凄い! 跡がしっかり残ってる! 見てよ、タ――」
リアムは、その規制線に恐れることなく触れてしまった。バチン! という音が僕のいる場所まで聞こえてくるほど大きな音がリアムの方から聞こえたと思うと、彼はその場に崩れ落ちた。




