全て元通りに
―保健室 朝―
どんどん聞いてくれみたいな感じだったというのに、途端になんだこれは。異世界から来る奴は、どいつもこいつも常識がないのか? そんなに知り合いいないけど。
「成せない……成せなかった。幸せに暮らしていたかっただけなのに、戦争がダディを奪って、病気がマミィとエリーを奪った。国はテロやら紛争で荒れていた。家族の中で唯一生き残ってしまったから、俺は……国を出た。遠い親戚が、俺を拾ってくれたから」
酷く落ち込んだ声色で、当時の状況を苦しそうに語る。先ほどまでの様子からは、想像もつかない悲しい過去。彼を狂人のように変えてしまった出来事なのか、元々なのかは分からないけれど、どちらにしても僕だったら狂わなければやってられない、そんな気がする。
「遠い親戚なのに、出来た人だった。ゼロからのスタートだと思って頑張れって励ましてくれた。学びは俺に沢山のものを与えてくれると。それはその通りで、俺は大学に通えるようになった。そこでね、巽……ゴンザレスに出会ったんだ」
でも、彼は笑っていた。泣きそうな楽しそうな、理解するには難しい表情だった。
「彼は親切だった。入ることで精一杯で、勉強についていけなかった俺を気にかけてくれた。俺には分からなかった、人気者で優秀な彼が俺を助けてくれる理由が」
「え……ゴンザレスが? 自分から君を?」
「うん。だから、聞いたんだ。どうして、人気者の君が俺を気にかけるのかって。そうしたらね、彼は言ったんだ。『友達だから当たり前だろ』って、太陽みたいな笑顔で。それを聞いたら、凄く心が温かくなった。そして、同時に思ったよ。彼みたいになりたいと。優秀で人気者の彼のように……」
その言葉を聞いた時、僕は昔ゴンザレスから聞いた話を思い出した。それは、ゴンザレスが嘆くように語った自身の過去。今の僕と同じように海外の大学へ通っていた際に、劣等感を抱くきっかけになった人物がいたと。
(確か、同い年の男……留学先……今更ながらリアムなのでは? 多分……いや、絶対そうだ)
しかし、ゴンザレスから聞いていた話とは印象が真逆だった。これは、一体全体どういうことなのだろう。
「俺なりに努力して、やっと追いついたと思ったら……彼は学校を辞めてた。友達を失ってしまったことで、また家族を失ったショックがぶり返してきたんだ。また失ったんだって思って。悲しくて悲しくていっぱい泣いた。だから、神様にもっと祈ったんだ。全て元通りに、友達もいる世界で幸せのまま――終わりたいって」




