表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第三十二章 不遜な者
506/768

それが正義

―? ?―

「――待って、待ってくれ! アリア!」


 僕は人ごみを掻き分けながら、遠く遠くへと消えていくアリアの背中を追っていた。どれだけ呼びかけても、どれだけ追いかけても、アリアは振り返ることなく足早に消えていく。


「僕は……僕はっ!」


 届かないと分かっているのに、僕は手を伸ばしていた。やっと会えたのに、やっと話せると思ったのに。


「君にはちゃんと……」


 すると、ようやくアリアは立ち止まってゆっくり振り返る。その顔は……満面の笑みを浮かべるリアムさんのものになっていた。


***

―保健室 朝―

「うわああああああっ!?」

「うぉ!? びっくりしたなぁ」


 目を開けると、そこは保健室だった。僕は、ベットの上にいた。それで、僕は全てを悟る。


(なんだ……夢か)


 アリアの顔が、彼の顔になってしまったのかと思った。夢を見ている時、それを現実だと捉えてしまう。夢を夢だと気付けることは中々ない。悪夢にも程がある、夢で良かった。


「途中で寝ちゃうなんて、よっぽど眠かったんだねぇ。朝だもんね、うんうん」


 きっと、彼はこれっぽっちも自分のせいだったなんて思っていないんだろう。もう疲れた、どうせ彼には何を言っても届かない。


「なんでもいいよ。もう……そんなことより、リアム……がさっき言ってたことを詳しく聞きたいんだ。隠し事はなしなんだろう」


 以前の僕は、こんな人と友好的な関わりを持っていたらしい。信じたくはないが、現実。とりあえず、望まれるようにして面倒ごとは避けよう。


「うん! 最初からそのつもりだったんだ。巽を救い出した時から、ずっとね」

「……じゃあ、まずは一つ目。君が、異世界から来たというのは本当かい?」

「本当だよ、巽に嘘はつかない! もしも、聞かれるようなことがあればすぐに答えるつもりだったさ」


(異世界から来てるなんて思ってもいないのに、聞く訳ないだろう。馬鹿なのか?)


 こんなに人に腹が立つことも中々ない。ぐっと堪えて、僕は問いかける。


「どうやって、この世界に来たんだ?」


 世界線を移動するには、僕が所有しているあの扉とペンダント、そして選ばれた者の存在が必要不可欠。そのどれかが欠けても、異世界や平行世界に行くことは出来ない。


「神様に連れてきて貰ったんだよ。あの人達は、世界に囚われて生きてないから自由に移動出来るんだって。信心深いから特別だって」


(また神か……君も、そんなものにすがって生きているんだ)


「それは誰だったの?」

「シギュンって神様だった。すっごく綺麗な女の人だったなぁ。だけど、凄く寂しそうだった。俺が信仰していたのは、その神様じゃないけど……彼女はその神様と強い関わりがあったんだって。でも、色々あって離れ離れになってしまったと嘆いていたんだ。それでね、俺どうにかしてあげたいって思った! だって、俺は正義だから!」

「正義……それが、リアムがこの世界に来た理由なんだね」

「そう! 彼女の願いを叶えれば、俺の願いも叶えてあげるって言われたんだ。俺にとっては、一石二鳥だよ。だって、結果的に信仰している神様の力にもなれるんだよ。しかも、俺の願いまで叶えて貰える。こんなにラッキーなことはないでしょ?」


 異世界に来てまで、彼が果たしたかったことは何なのか。そうでもしなければ、果たされない夢だったのだろうか。


「どうして……異世界じゃなきゃ駄目だったの? リアムのいた世界では、成せないことだった……の、かい?」


 さっきまでと同じように、僕は尋ねた。その質問の直後、太陽のようにギラギラとした目で話していた彼の表情が一変した。穏やかな雰囲気も、呼吸し辛くなるほどに重くなる。それを喩えるならば、暗雲が立ち込めて夕立が降り、激しく雷鳴が響き始めたあの嫌な感じに似ていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ