花咲み
―学校 朝―
「なんで……?」
僕が言えたのは、それだけだった。そして、僕の上に乗っかったまま淡々と語り始める。
「俺はね、この世界の人間じゃないんだ。でも、君にとってはそんなに驚くことじゃないよね。だって、もう知り合いがいるんでしょう? 異世界の知り合いが。俺も、その人を知ってるんだ。確か……ゴンザレスって名乗ってるんだっけ? 俺の世界の宝生 巽は」
「いや……」
「ん? どうかし――」
「驚くわ! こんなの! そんなに驚くことじゃない? ゴンザレスがいるから? それとこれとはまた違うわ! 君は阿呆なのか! ど阿呆なのか!? あぁ、ど阿呆だ! 君のせいで、こっちは遅刻決定だ! というか、僕が走ってたの見てたんだよね!? どういう神経してたら、突進出来るの!? どっからどう見ても急いでるようにしか見えなかったよね!? それなのに、君は言いたいことを一方的に……そうですか、なるほどなんて言える訳ないだろう!? 状況って言葉知ってるかな!? 知らないんだったら、今すぐ調べることだね! というか、邪魔なんだよ。僕は乗り物じゃない! さっさと降りてくれ!」
自分自身でも驚くほどの勢いで、次から次へと我慢していた怒りが溢れ出した。これに関しては、僕に非は一切ないと断言出来る。
彼は、一瞬で僕が頑張ってきたものを破壊したのだ。超高速で準備を済ませたこと、必死で屋敷から学校まで走り続けたこと、それらは全て授業に遅れない為だった。なのに、空気が一切読めない彼のせいで、それらが水の泡と化してしまった。
「ぜぇ……ぜぇ……」
(これで少しは反省……は?)
リアムさんは、周りに花が咲いていると錯覚させてくるくらいの笑顔だった。僕が息を切らしながらぶつけた怒りは、どうやらまったく別のものに変換されて伝わってしまったようだった。
「良かったぁっ!」
「げぇっ!?」
抱き締める力が、さらに増していく。引き剥がそうとしても、彼の力の方が異様に強くてびくともしない。というか、呼吸すら十分に出来ない。
「だって……前に会った時も、さっきもすっごくよそよそしい喋り方をするんだもん。なぁ~んだ、俺のことを忘れちゃった訳じゃないんだね。また、『リアムさん』だなんて呼ばれたらどうしようかと思ったよ」
「ハハ、ハハハ……」
(あぁ、もう何だか馬鹿馬鹿しい。どうでもいいや……)
よく分からない奴に、正体を知られていて、獣臭いと勘付かれ、挙句力負けをして支配権を握られ、思いは何も届かず、遅刻確定。一気に異常に疲れてしまった。
(息が苦しい……視界がぼやけ……て……)
「が……」
遠くで響く彼の声を耳に入れながら、意識は深い底へと落ちていった。




