親友になりたい
―学校 朝―
蝉の鳴き声が耳をつんざく。その鳴き声は、僕はあまり好きじゃない。うるさいし、暑さを引き立てるから。しかも、こんな走ってる時に聞くのは最悪だ。
(遅刻だ、遅刻!)
父上とのことが頭を離れなくて、中々寝れなかったせいだ。アルモニアさんに口に肉の塊を突っ込まれなければ、完全に終わっていた。
(瞬間移動を使ってここまで来れたら楽だったけど、そうしたらきっと周りに引かれてしまうっ!)
学校は、一体どこに人の目があるか分からない。そこまで熟知している訳ではない。それに、こんなことの為に無駄に魔力を消費したくないというのもある。
(急がなければ……単位がっ! 魔法に頼らなくても、日々の鍛錬で身につけたものでどうにか出来れば……!)
「たぁああああつぅううみっぃいい! ぬぁああいたかったよぉおおっ!」
背後から弾丸のように、それは突っ込んできた。あまりの勢いに、僕は対処出来ずそのまま地面を滑り転がった。顔から。
「だ……だ、れ」
砂の味がする。何の嫌がらせだろうか。しかも、僕は急いでいるのに。
(いや、待て! さっき、僕の本名を言ったよな!?)
しかし、それに突っ込む間を与えてはくれない。
「久しぶりぃっ! 会いたかったよぉおっ! 我が友よっ!」
痛みに加えて、ずっしりとした重みが乗りかかってくるのを感じる。そういえば、前にも同じことがあった。
「あぁっ!?」
「やっと会えたねぇ!」
(このにおい……あの選抜者のリアムさんか? 前に会った時も……こんな感じで。あぁ、間違いない!)
クロエの遺したノートにも、記載があったはず。優等生で、僕とは学科は違うのにつきまとってくるヤバイ奴。しかも、友達だという。常識や普通が通じない、要注意人物であるとも書いてあった。
「あ、あの……僕急いでいるんです。授業が始まっちゃうんですよっ! 動けないので、とにかく降りてくれませんかね!?」
「くんくんくん……」
僕は時間に追われているというのに、リアムさんはまったく話を聞いちゃいなかった。何とか顔だけ、彼に向けると動物のように僕を嗅いでいた。
「あの! 何を――」
「巽……野生的な臭いがする。獣みたいな……血生臭さというか……」
「っ!?」
今まで誰にも突っ込まれてこなかった事実。あの父上にすら、勘付かれなかったのに。こんなよく分からない人に、あっさりと見抜かれてしまうなんて。
(遅刻したから、ちゃんと洗浄し切れてなかったのか!?)
最悪だ。こんな厄介そうな人に、気付かれてしまうなど。慌てて僕が逃げようとした時、彼はそれを拒むように力強く抱き締めた。
「はぁ!?」
「いいよ、巽がどんな人間でも……気にしない。友達だから」
遠くで始業を知らせる音が聞こえる。全身から力が抜けていく。絶望に体が支配されていく。
「でも、俺……本当は巽とは親友になりたい。親友はお互いを知り合い、信頼し合うパートナーなんだ。正義には、そういう存在が必要不可欠なんだ。巽にしか頼めないことなんだ。信頼し合うには、隠し事があっちゃいけないよね。だから、全て明らかにしよう。心配しないで、俺はもう知っていることがいくつかある。たとえば、巽はこの世界では王様だってこと」




